動物個体におけるシナプス接続パターンがどの様に形成され、またどの様に機能しているのかを網羅的に理解することは、複雑な行動等を制御する神経情報処理メカニズムを理解するための大きな手掛りとなる。線虫(C. elegans)は、電子顕微鏡の連続切片解析を基に、300個の神経細胞が形成するほぼ全てのシナプスの位置やその標的細胞が推定されている唯一の動物とされている。しかしながら、これらのシナプスは小胞の集積などの形態的(構造的)特長により推定されたものであり、実隙には同定されたシナプス部位が生体の情報処理にどの様に寄与しているのかを明確にした研究例はほとんどない。そこで本申請課題では、実際に生体内で機能しているシナプス接続パターンを理解するために、行動や刺激に伴う神経活動をシナプスレベルで解析する観察システムを構築することを目的とした。まず、NaClなどを受容する化学感覚神経に、シナプス活動に伴う蛍光量変化を解析するためのGFP融合タンパク質を発現させた形質転換体を作製した。この線虫を用いたイメージングにより、受容する塩濃度を変化させることで、単一シナプスレベルで活動するプレシナプスを観察することに成功した。また、この塩に対する走化性行動を制御する感覚神経の標的細胞特異的にシナプス接続が異常になった変異体を用い、シナプス接続パターンと走化性行動のアッセイを行った。その結果、シナプス数の変化に伴い、線虫の走化性行動も変化し、個々のシナプスが持っ役割を考察することができた。
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