動物個体におけるシナプス接続パターンの形成メカニズム、機能メカニズムを理解することを目的として、線虫(C. elegans)を用いた細胞学的、分子遺伝学的解析を行った。特に感覚神経ASERと介在神経AIYとの間の特異的シナプスに焦点を当て、生体内での個々のシナプス活動の可視化と、その形成を制御する分子の特定を試みた。両神経間のシナプス形成のみが特異的に異常になった突然変異体(ta104変異体)を単離した。次世代シークエンス解析により突然変異部位の候補を推測し、表現型回復実験を行うことでその候補遺伝子の中からepi-1を原因遺伝子として明らかにした。分子遺伝学的解析から、epi-1はラミニンαサブユニットをコードすることが分かった。発現解析および細胞特異的な回復実験等を行い、この変異部位がASER/AIYを含むある特定の神経間のシナプス形成において重要な意義を持つ事まで明らかにする事ができた。ラミニンがシナプス形成に果たす役割については、近年明らかにされつつある。本研究から得られた結果は、この哺乳類に至るまで良く保存されているラミニン3量体が、ある特異的なタンパク質ドメインを用いて多種多様な神経間のシナプス形成の組み合わせを制御する、という新規のメカニズムを示唆するものである。また、pH感受性蛍光タンパク質を利用したシナプス放出量の可視化解析を進め、刺激に伴う蛍光量の変化を観察することにも成功している。
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