免疫を担うB細胞ではB細胞レセプターからのシグナルが分化・成熟や増殖および活性化を制御する。近年、B細胞で活性酸素シグナルがBCRシグナル経路のセカンドメッセンジャーとして機能することが示されている。本年、私たちが明らかにしたのは、抗原刺激後に成熟B細胞が形質細胞へ最終分化する過程で、Bach2が形質細胞分化を抑制することがクラススイッチを実行する遺伝子ネットワークの実体であるということである。Bach2の直接標的遺伝子のBlimp-1は、形質細胞分化に必須の転写因子をコードする。一方で、転写因子Blimp-1はクラススイッチに必須の酵素AIDの遺伝子発現を抑制する。Bach2はこの作用を抑制する役割を担うことをマウスの遺伝学的手法を用いて明らかにできた。一方で、Bach2が活性酸素刺激に応答して細胞内局在やDNA結合活性が制御されるという知見を得ている。従って、活性酸素シグナルがBach2を介してB細胞活性化応答の遺伝子ネットワークの切り換えに貢献すると予想した。そこで、Bach2タンパク質で酸化還元反応に必須のシステインの同定を試みた。大腸菌で発現させたリコンビナントBach2を化学修飾剤し、質量分析して化学修飾されたシステインを含む断片を解析した。その結果、DNA結合ドメイン近傍にあり、今回検討できたシステインは全て化学修飾されていた。このことから、Bach2は活性酸素シグナルのセンサーとなる可能性があるシステインが多いと考えられる。今後は、システインに変異を導入したBach2タンパク質を発現するトランスジェニックマウスでBach2ノックアウトマウスをレスキューする実験をおこない、活性酸素センサーの生理的意義の解明につながる研究である。
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