植物が受ける環境ストレスの多くは光合成電子伝達系を阻害し、植物細胞内に活性酸素種を発生させ、酸化ストレスをもたらす。本研究では、生物界に保存された酸化ストレス誘導性細胞死の抑制因子として、Bax Inhibitor-1(BI-1)に注目し、BI-1による酸化ストレス耐性獲得機構の分子メカニズムを明らかにすることを目的として研究をおこなった。 小胞体膜上に局在するBI-1の相互作用因子として単離されたスフィンゴ脂質ヒドロキシル化酵素(FAH)の解析に加え、脂肪酸伸長酵素(ELO)との相互作用に関する解析を進めた。シロイヌナズナには4種類のELO(ELO1-4)が存在する。酵母を用いた2-hybrid法、植物細胞を用いたBiFC法により、このうち、ELO1及びELO2がCb5と相互作用することが示され、一方、ELO3及びELO4については相互作用を示さないことが明らかとなった。小胞体膜上にFAHを含めたこれらの因子が集合体として存在する可能性が考えられた。また、これらの脂質代謝酵素の産物は特にスフィンゴ脂質に含まれる事が知られている。BI-1を高発現させたイネの培養細胞はメナジオンなどの酸化ストレス薬剤に対する耐性を獲得する。この細胞より細胞膜を単離し、さらに界面活性剤に耐性を示すマイクロドメインを精製し、膜組成の解析を行った。その結果、BI-1を高発現する綱胞では2-ヒドロキシ脂肪酸量が増加していることが確認された。さらにこのマイクロドメインに存在するタンパク質のプロテオーム解析を行った結果、複数のタンパク質の量が変化していることが明らかとなった。今後、これらの機能を明らかにすることによって植物の酸化ストレス応答を分子レベルで解明できると期待される。
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