近年、神経細胞に特異的に発現し、可逆的に酸素を結合できる「ニューログロビン(Ngb)」が報告された.このNgbを過剰に発現させると虚血・再灌流に伴う細胞死が減少し、逆に発現を抑制すると細胞死が増加することから、酸化ストレスによる細胞死を抑制する働きがNgbにあることが示唆されている.Ngbは通常の酸素濃度下においてはヘモグロビンなどの他のグロビン同様、ヘムの片側よりヒスチジンが配位し、他方から酸素分子が配位する構造をとっている.しかし、酸化ストレス下ではヘモグロビンなどとは異なり、ヘムの両側からヒスチジンが配位することによって大きな構造変化を生じる.我々は以前、この酸化ストレス時の大きく構造変化したヒトNgbがシグナル伝達タンパク質であるヘテロ三量体Gタンパク質のαサブユニット(Gα)と特異的に結合して「GDP解離抑制タンパク質(GDI)」として機能することを発見し、このGDI活性がヒトNgbによる細胞死抑制に重要であることを明らかにした.今回、我々は酸化ストレス下におけるヒトNgbの構造変化が細胞死抑制に重要であることを検証するため、酸化ストレス下でヘムに配位する64番目のヒスチジン(His64)をヘムに配位できないバリンに置換したH64VNgb変異体、およびヘムを亜鉛ポルフィリンで置換することにより酸化ストレス下でHis64が配位できないようにした亜鉛ポルフィリン置換Ngbを作製し、これらがPCI2細胞の酸化ストレスに伴う細胞死を抑制するかを調べた.その結果、H64V Ngb変異体および亜鉛ポルフィリン置換Ngbは共に細胞死をほとんど抑制しなかった.このことは、酸化ストレス下におけるNgbの構造変化が細胞保護に重要であることを示している.
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