研究概要 |
前年度において,タンパク質表面の脱水和と選択的溶媒和をもたらす尿素(1M)によってアクトミオシンの滑り運動とATPase活性が抑制されることを示した.今年度では,この抑制の原因を調査した.尿素によるアクチン活性化ATPase活性のKmの増加が認められたことから,アクチンとミオシン間の親和性が減少していることがわかった.加えて,ミオシン分子からのアクチン繊維の解離を顕微鏡下で直接的に観察したとき,解離速度が増加していることがわかった.尿素によってアクチンとミオシン間の親和性が低下したために運動の駆動力が損なわれた可能性がある.これらの効果がアクトミオシンの立体構造の変化によるものかどうかを調べるために,bis-ANSを構造変化検出のための蛍光プローブとして用いてその蛍光強度の変化を測定した.その結果,運動抑制が発生する1Mの尿素濃度において,アクチン繊維での蛍光強度変化はみられなかったが,ミオシンでは1.5倍の増加がみられた.このことはミオシンのATP結合領域の構造が不安定になっていることを示す.一方で,タンパク質の構造を安定化させるトリメチルアミンNオキシド(TMAO)存在下においても尿素の場合と同様にアクトミオシンの滑り運動の抑制と解離速度の増加が観測された.この結果は,アクトミオシンの構造の不安定性が運動抑制の直接的な原因ではないことを示す.さらに,尿素による滑り運動の抑制効果は,TMAOを加えることによってある程度中和された.TMAOと尿素が水和層に対して逆効果をもつにもかかわらずどちらもアクトミオシンの運動を抑制したことは,最適な水和状態があり,それがATPエネルギー変換に重要であることを裏付ける.
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