研究概要 |
ABCトランスポーターは、ATP加水分解エネルギーを用いて基質の能動輸送を行っている。そのエネルギー共役メカニズムを解明するために、ATP加水分解を行うヌクレオチド結合ドメイン(NBD)と基質排出活性部位である膜貫通ドメイン(TMD)が相互作用する部位、すなわち2つの細胞内ヘリックス、IH1とIH2の役割をタンパク質工学的な手法を用いて調べた。 1)標的とした大腸菌MsbAの低解像度(5.5~4.5Å分解能)立体構造に基づいてIH1とIH2の領域を同定したところ、IN1は、Val113からGln119まで(VSFFDKQ)、IH2は、His214からLeu218まで(HKEVL)であると考えられた。そこで、IH1、IH2それぞれのアミノ酸残基をすべてAla残基へと置換した変異型MsbAを作成した。得られた変異型MsbA遺伝子は、野生型と同様に大腸菌にて発現させて精製した。その結果、IH1変異型は、野生型の70%、IH2変異型は、40%に活性が低下した。一方、ATP加水分解を活性させる基質を加えた場合、IH2変異型では、阻害を受けるようになった。このことは、IH1とIH2がエネルギー共役に関わること、特にIH2の役割が重要であることを示している。 2)MsbAよりも高解像度の結晶構造を得るため、好熱性紅藻由来のABCトランスポーターについて、酵母を用いた発現系を構築して大量精製を行い、3.5Å分解能での結晶を調製することに成功した。そして、水銀誘導体を用いて位相を決定し、X線結晶構造解析を達成した。その結果、IH1,IH2上のアミノ酸側鎖が相互作用する相手の詳細な立体構造情報が明らかとなった。
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