細胞内の成分組成を見てみると、その70%は水である。タンパク質、核酸などの生体分子は、周囲を水分子に取り囲まれ水素結合を形成し、エネルギー的な最適化がほどこされている。この生体分子と水の相互作用は、高圧力をかけることで変調させることが可能であり、高次構造の形成や酵素活性が変化することが知られている。本研究課題では、高圧力により引き起こされる生体分子の構造変化や機能変調を光学顕微鏡下で観測できる「高圧力顕微鏡」の開発を通して、代表的な生体分子機械であるATP駆動型分子モーターの動作機構を明らかにすることを目的としている。高圧力下の顕微観測を可能にする高圧チャンバーは、耐圧性能を維持するために観測窓周辺に大きな機械的制約を受けており、顕微観測の際に大きな障害となっている。平成21年度は、高圧力顕微鏡の光学系の改良し、次年度以降に分子モーターの圧力応答を詳細に調査できるように整備した。1) 圧力変化に伴う焦点位置の変化を自動補正することで、圧力値の急激な変化に対する応答を記録可能にした。2) 高圧チャンバー内を長作動距離低開口数の対物レンズを用いて、明視野像、暗視野像、位相差像、落射蛍光像の観察を可能にする光学系を作製した。3) 同一サンプル内の顕微観察像を波長により分離し、同一カメラ上の別の場所に同時に結像させる光学系を作製した。また、高圧力下でキネシンと微小管の分子間相互作用を調べたところ、AMP. PNPによる強結合状態が弱められ、両者の解離反応が圧力と共に指数関数的に増加することが明らかとなった。H22年度以降は、高圧力下でキネシンの運動アッセイを行い、詳細な運動解析を行っていく。
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