研究概要 |
アクチンモノマーの全原子モデルMD計算(温度310K/340K,圧力100kPaで300ナノ秒の独立なシミュレーションを32本,100ナノ秒を16本)を実行し,水溶液中での構造状態,およびそのヌクレオチド依存性を調べた。300ナノ秒時点で構造緩和が完了していないことが分かった一方,プロペラ角,およびDB-loopについて初期の結晶構造とは顕著に異なる状態に構造変化したことが分かった。平衡に達するにはさらに200ナノ秒程度の時間を要すること,またATP状態とADP状態で平均構造に相違があることが分かってきた。 ミオシンについても同様に全原子モデルMD計算を実行した(温度310K,圧力100kPa,計5マイクロ秒)。アクチン結合クレフトにヌクレオチド依存的な構造変化が検出された一方,レバーアームについてはパワーストロークに対応する構造変化は観測されなかった。これらの結果をエネルギーの観点から理解するため,クレフトおよびレバーアームを反応座標としてエネルギー地形を計算した。すると,クレフトについては蛋白質分子内および溶媒分子間(溶媒は水とイオン)の相互作用エネルギーがヌクレオチド依存的な構造変化をドライブしていることが分かった。一方,パワーストロークが観測されない物理的理由がミオシンー溶媒間の相互作用エネルギーにあることが分かった。これらの結果は,ミオシンのヌクレオチド依存的な構造状態に対する水とイオンの重要性を示しているので,現在,ミオシン周囲の水の秩序構造(配向,密度分布)およびイオン分布の解析を行っている。さらに,ヌクレオチド依存的な構造状態におけるエントロピーの寄与を解明するため,アンブレラ・サンプリング法を用いた自由エネルギー地形の解析を進めている。 さらに,1分子計算機実験に向け,粗視化モデルで適用可能な分子間相互作用モデルの基礎研究も行った。
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