研究概要 |
生命活動の基盤となる組織や細胞環境におけるタンパク質の構造変化や分子間相互作用を考える場合、ATP変換による化学エネルギーと水の結合による水和エネルギーの寄与の評価は極めて重要である。本研究では、これまでの実験及び理論的考察に基づき,構造生物学の面から「エネルギーと構造形成」や「水和と構造形成」に触れ,相補的な議論の成立を目指す。今年度は、電子顕微鏡観察と画像処理によるアプローチで、以下の3つの研究課題を検討した。 1. タンパク質の3次元構造ゆらぎ(可逆的多形性)の可視化 2. タンパク質複合体の表面構造の解析 3. タンパク質結晶構造中の水和量の測定 本研究領域「水和とATP」における、電子顕微鏡による本研究の位置づけは、あるエネルギーレベルでのタンパク質分子のコンフォメーションを可視化し、解析することにある。そのため、タンパク質の3次元構造ゆらぎ(可逆的多形性)の可視化では、ミオシン頭部の各反応状態におけるコンフォメーションの出現確率の分布を計測し、熱測定のデータ等と相関させて、タンパク質の構造ゆらぎを定量評価した。タンパク質複合体の表面構造の解析では、アクチンフィラメント上の構造パターンをテクスチャとして捉え、ミオシンとの相互作用によるフィラメントの形態変化を定量解析した。フィラメント上でミオシンの結合部位近傍から、どの程度構造変化が広がっているか、ミオシンの結合部位の両端で差異を定量化し、アクトミオシン系の滑り運動の方向性を解明した。タンパク質結晶構造中の水和量の測定では、ヌクレオチドと対象として評価した。以上のように、タンパク質複合体の3次元揺らぎに基づく複数種の構造を可視化することで、「エネルギーと構造形成」や「水和と構造形成」を統合的に説明できるように研究推進している。
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