アクチン・ミオシン系の力発生機構に関しては、ミオシンモーター(S1とよぶ)内部の棒状領域が角度変化し、力が発生するという説(レバーアーム説)が有力である。この説で想定されているアクチンフィラメントの役割は、鉄道線路の様な構造要素に過ぎない。しかし、S1との相互作用がアクチンフィラメントに長距離の協同的構造変化をひきおこすことはよく知られており、このときにフィラメント周囲のハイパーモバイル水が増大すること、またピレン標識されたアクチンの蛍光が変化することも報告されている。このため、アクチンフィラメントの協同的構造変化に依存した未知の力発生機構が議論されている。そこで本研究では、アクチンフィラメントの協同的構造変化が力発生に関与するための前提条件、すなわちこうした協同的構造変化が非対称的・一方向的(つまり運動方向と関連する)であることの検証を目指している。21年度は、われわれ独自のアクトS1キメラタンパク質を利用し、上述ピレンの蛍光変化を指標に、S1結合によるアクチンフィラメントの協同的構造変化の方向性の検討に着手した。こうした協同的構造変化はアクチンフィラメントのB端方向に進むことを示唆する予備的データを得ているが、この点をさらに確認するため、効率の良いキメラタンパク質発現系を構築し、実験の準備を進めた。またミオシン結合による近傍のアクチンサブユニットの構造変化が、フィラメントサブユニット間の伝達を介するのか、S1のセカンダリーアクチン結合領域を介するのかを区別するため、セカンダリーアクチン結合領域を欠いたキメラタンパク質を作成、精製し、実験の準備を整えた。 また、キメラタンパク質のホモポリマーの運動性を確認する実験にも着手し、実験条件の最適化を進めている。
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