研究概要 |
自閉性障害(ASD)の対人的相互性の障害は、他者の感情を推定する表情認知の障害であると報告され、他者の顔を見たときに目の部分を見ることがなく、このことが他者と視線を合わせないという特徴を表していると報告されている。一方、これらの視線の異常や、他者の表情認知に障害がないにもかかわらずfMRIで検討すると、賦活される脳部位は健常者とは異なっているという報告もあり未だ議論のあるところである。そこで、本研究では成人ASD 14名について、1)表情認知が困難かどうか、2)他者の顔のどの部分を見るかの視線解析と、3)同様の表情の顔をみたときに賦活される脳部位をfunctional MRI(fMRI)を用いて15名のcontrol群と比較検討した。 ASD群のAQ-Jの値の平均は39.6であり、健常群の平均値(16.9)と有意の差が見られた。 被験者は、頭部を固定して、computer display上のhappy, sad, angry, neutralの4種の表情の顔の視覚刺激を見て、DITECT社製のView Trackerにて視線解析を行った。一つの表情の写真を6秒間提示し、表情を正しく判断することができるか、また、顔の各部分への視線の総停留時間を調べた。表情認知の正誤は自閉性障害群の正答率が低い傾向にあったが有意差は見られなかった。また視線解析におけるエリアごとの停留時間は眉間・鼻周辺に多く見られ、両群間に有意差は見られなかった。しかし脳機能画像においては紡錘状回や上側頭溝(STS)などの表情認知領域やmirror neuron領域において自閉性障害群に賦活の低下が見られ、このことから自閉性障害群においては表情認知の際にcontrol群と異なる脳の領域を使っている可能性が示唆される。
|