研究概要 |
自閉性障害、アスペルガー障害などの自閉症スペクトラム障害(ASD)では非言語性対人的相互性の障害があることが知られている。その基礎にある脳機能として表情認知の障害が注目されている。本研究はASDにおける表情認知の特徴を明らかにする目的で、表情認知課題遂行中の大脳皮質活動を機能的脳画像(fMRI)を用いて調べた。ASD群と定型発達者群各15名に、視覚刺激としてHappy、Anger、Sad、Neutralの4種類の表情からなる顔写真を用い、課題遂行中に撮像を行い、SPM8で解析した。MarsBarを用いて左右紡錘状回、左右ミラーニューロン(MN)領域、補足運動野、前部帯状回、左頭頂間溝、右島の8か所の関心領域(ROI)を設定し、各表情の偏回帰係数のROI毎のANOVAにより検定した。また、ASD群で自閉症スペクトラム指数(AQ-J)と各表情の偏回帰係数の相関をROI毎に求めた。ANOVAでは右前頭葉ミラーニューロン領域(FMN)で群×表情の交互作用を認めた。2群間での有意差のあった領域は、Happy,Sad,Neutralでは、右紡錘状回、Angryでは、右MNで、これはASD群で逆に有意に上昇していた。AQ-J値と各表情の偏回帰係数では右MN領域においてHとNで有意な負の相関を示した。これらの結果は表情認知に際してASD者は定型発達者とは異なる皮質活動を右MN領域で行っていることを示唆し、表情に対する情報処理に違いがあることを示している。ASD者において、Angryで定型発達者よりも高い活動が見られたことは、社会生活上の適応不全と関連している可能性がある。
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