蛍光逆行性トレーサーコレラトキシン-Alexa 555をサル脳に少量注入し、約500μm(機能カラムサイズ)の注入部位を作り、1-2週間置いた後に、蛍光実体顕微鏡で脳表を観察すると、注入部位に投射するスポット状の領域を生体内で脳表から同定することが出来る(生体内線維連絡可視化法)。この手法と電気生理学的手法を組み合わせて、サル下側頭葉皮質における顔認知メカニズムを解明する試みについて本研究会で報告したい。サル下側頭葉皮質は、顔を含む物体認知に関わる腹側視覚経路の最終段階にあり、前部にあたるTE野と後部にあり、一段階前の領野と考えられるTEO野に分かれる。我々は、まずTE野の顔に強く反応するスポットを同定し、そこにトレーサーを注入し、生体内線維連絡可視化法より、その顔スポットに投射する小領域をTEO野内に生体内で同定し、これらのスポットおよびランダムに選んだスポットの視覚刺激に対する反応性を調べた。その結果、TEO野の投射スポットの視覚反応性は、ランダムに選んだTEO野のスポットに比べて、トレーサー注入部位であるTE野のスポットの視覚反応性とより高い相関を示した。しかし、TE野のスポットは、顔の構成パーツ(目、鼻、口)をシャッフルしたもの(シャッフル顔)よりも顔に対して有意に強く反応していたが、この傾向は、この部位に投射するTEO野のスポットにはなかった。これらの結果と、報告されているTEO野の小さな受容野あわせて考えると、TEO野は顔の部分の情報をTE野に送っているという考えを支持すると思われた。事実、TEO野において、reduction processを用いてcritical featureを決めると、サルの髪のtextureや、目と思われるfeatureである例が観察された。また、TEO野の投射スポットに抑制性神経伝達物質GABAアゴニスト・ムシモルを注入することにより、TE野のトレーサー注入部位のスポットの視覚反応性が大きく変わることを観察した。この大きな変動は、注入部位ではないTE野の記録では起こらず、また、TEO野内の任意の部位へのムシモル注入では、起こらないことを確認した。上記の結果は、TEO野からTE野への投射が強い影響力を持っている事を示唆している。
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