研究概要 |
本研究では,顔と名前の連合記憶の想起に関連する神経基盤が,加齢によってどのような影響を受けるのかについて,fMRIを用いて検証した.本研究には,20名の若年健常成人および健常高齢者が参加した.すべての実験参加者は,記銘時には顔と職業名・名前の連合を記銘し,想起時には,顔と名前(N課題)および顔と職業名(J課題)の連合想起課題を行った.その結果,想起課題中の海馬の活動は,高齢群で若年群よりも有意に低下していたが,N課題とJ課題の間で神経活動に有意差はなかった.一方,左側頭葉先端部の神経活動は,N課題でJ課題よりも有意に増加していたが,年齢の効果は認められなかった.想起課題中の海馬と左側頭葉先端部の活動の相関は,若年群で高齢群よりも有意に高かった.これらのことから,海馬と左側頭葉先端部の間の機能的連関に対する加齢の効果によって,顔と名前の連合記憶の高齢者における想起困難が引き起こされることが解明された. 顔の魅力と「人間性の良さ」の判断の間には密接な関係があり,このような心理傾向は「Beauty-is-Good(BG)ステレオタイプ」と呼ばれている.しかし,その神経基盤については明らかにはなっていない.本研究ではBGステレオタイプの神経基盤を,fMRIを用いて明らかにした.実験参加者は,顔魅力判断課題,文章からの人間性の判断課題に参加し,その際の神経活動がfMRIによって測定された.顔の魅力判断の向上と人間性の判断の向上に共通して関与する領域として内側眼窩前頭皮質が同定され,それぞれの判断の低下に共通して関与する領域として島皮質が同定された.また,これらの領域間の機能的連関を検証したところ,有意な負の相関関係が示された.これらの結果から,BGステレオタイプはそれぞれ異なった役割を持つ眼窩前頭皮質と島皮質の間の機能的連関によって調節されていることが明らかにされた.
|