研究概要 |
自己顔認知の神経基盤を、脳活動測定と行動実験を用いて解明する全体計画である。平成22年度は自己顔認知で特異的に活動する右頭頂-前頭領域の役割について、次の2つの仮説を検討した。【仮説1】自己顔が自分の身体の一部である事実を反映した「視覚運動統合」に過ぎない。【仮説2】模倣(学習)や共感など社会的認知の神経基盤として注目されている「ミラーシステム」として、自己顔の社会的役割の獲得に関与している。両仮説の検証のため、MRI対応被験者撮影装置を組み込んだ視覚刺激提示システムに刺激遅延提示システムを組み込み、擬似的鏡像自己顔認知環境下で6条件のfMRI実験を行った。被験者は画面に提示されるひらがな1文字を読む課題を遂行し、この間2秒間、背景に被験者の自己顔が鏡像として提示される(self Real, SR)条件が基本的な条件である。同じ自己顔について鏡像提示を500ms遅延させるSelf Delay (SD)条件、あらかじめ録画してあった静止画が提示されるSelf Static (SS)条件、また同様に他者の顔が提示されるOther Real (OR)、Other Delay (OD)、Other Static (OS)の3条件を、設定した。仮説1が正しければ、右頭頂-前頭領域は自己顔の運動に対するフィードバック二語差がある条件、すなわちSDとSSのみで活動上昇が見られると期待される。一方で仮説2が正しければ、すべての自己顔(S)条件で活動が上昇するはずである。被験者12名分の実験結果を解析した結果、右頭頂領域の活動はSDとSSのみで活動上昇が見られるパターンとなり、仮説1が正しいことが示された。ただし、右下前頭溝の前方部で、すべての自己顔(S)条件で活動が上昇するパターンが見られた。この領域は「ミラーシステム」として知られる領域ではないが、活動パターンからは社会的な意味での「自己」認知に関与することが示された。
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