顔は、われわれヒトにとって相手の識別、他者の裾視線・意図、感情等の認識を支える非常に重要な社会的刺激である。ヒトは、このような顔に対し、その目鼻口の相対的な位置関係に鋭い感受性を持ち、何千もの顔を区別することが可能であることが示されている。このヒトの顔知覚様式の進化を考えるうえで、ヒトとヒト以外の霊長類種における顔知覚様式の異同を検討することが必要不可欠である。そこで本研究では、ヒトの顔知覚様式の進化的側面を分析するため、ヒト以外の霊長類、特にチンパンジーおよびマカク類を対象に彼らの顔認知能力を研究している。21年度は、サッチャー錯視に注目し、特にニホンザル乳児を対象に、彼らの顔知覚様式の発達的な変化を分析してきた。ヒトとニホンザルの顔写真を刺激に用い、通常顔に馴化させたのち、テスト刺激としてサッチャー顔化した刺激を呈示する。また、生得的な要因と、経験の効果を分析するため、同種にのみ接触経験豊富な放飼場群と、ヒトに対しても接触経験が豊富な個別飼育群を被験体に用い、比較をおこなっている。これまでのところ、被験体数に限りがあるため、これらの要因の効果を結論付けるだけの充分な結果は得られていないが、同様の分析を続けていくことで、22年度中にはある一定の結論が得られると期待される。また、21年度中は国内各地で飼育されているチンパンジーの顔写真を収集し、弁別訓練及びアイトラッキングを用いた実験を推進するための準備を進めてきた。22年度はこれらの刺激を用いて、チンパンジーの顔知覚様式についても分析を進める。
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