【目的】顔表情は、知覚者の感情を喚起し、その行動出力を方向づける。本研究は、その脳内機序の詳細とともに不明な点が多い、顔表情が個体間の行動出力に及ぼす影響について、脳領域問の情報伝達を担う神経伝達物質の機能、及びこれを調節する遺伝子の塩基配列の個人差(遺伝子多型)に着目して、その脳内機構を明らかにするとともに、顔表情の認知の包括的なモデルを提唱することを目的とする。 平成21年度は、セロトニン・トランスポーター(5-HTT)遺伝子に着目をし、怒りと恐怖が知覚者にもたらす行動反応の相違について更なる検討を行った。5-HTT遺伝子多型にはS型とL型があり、S型の個人は不安が高く、L型は衝動性が高いとされている。仮説(1) 怒り表情が接近性の高い表情であれば、怒り表情呈示による衝動的反応が増加するだろう。またそれはL型において顕著だろう。(2) 怒り表情が回避性の高い表情であれば、怒り表情呈示に対する反応時間が遅延するだろう。またそれはS型において顕著だろう。また課題中、抑制を司る前頭前野腹外側部(VLPFC ; ventro lateral prefrontal cortex)の活動を測定した。 【方法】実験参加者:31名(男性17名・女性14名、平均年齢21.19±1.28歳、セロトニン・トランスポーター遺伝子L型15名、S型16名)刺激:ATR顔画像データベースより選定した、刺激強度が同程度である10名(男性6名・女性4名)×各4表情(幸福・怒り・中性)の計40枚を使用し、Go/Nogo課題を実施 【結果】(1) 怒り表情は接近と回避の両者いずれかの行動を導くこと(2) 出力される行動の個人差はBIS/BAS、セロトニン・トランスポーター遺伝子の機能的差異において予測される(3) こうした個人特性を調整する中枢神経系基盤としてのVLPFCの関与が示された。
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