研究概要 |
顔表情は、知覚者の感情を喚起し、その行動出力を方向づける。これまでに他者表情により生ずる非意識的な模倣の中枢神経系基盤について多くの検討が行われ、扁桃体、島、腹側運動前野、下頭頂小葉などの脳領域の関与が明らかとなってきた(e.g., Kimberly et al., 2008)。その一方で、顔表情が行動出力一般に及ぼす影響については、その脳内機序の詳細とともに不明な点が多い。本申請者は、これまでに顔表情の認知メカニズムの解明を目的として、機能的核磁気共鳴脳画像法(fMRI)、事象関連電位測定、及び近赤外線分光法(NIRS)による検討を行い、顔表情の非意識的・意識的な処理過程における扁桃体、前頭前野腹外側部(VLPFC)などの関与を明らかにしてきた。本研究は、運動反応の発現と制御メカニズムの脳内機構について、大脳基底核、前頭前野腹外側部などの領域の関与、およびそれらの活動の個人差を生ずるセロトニン神経遺伝子多型(gene polymorphism)の関与を示したこれまでの研究成果を融合、発展させ検討したものである。実験では怒り表情の認知プロセスが行動反応に及ぼす影響について、セロトニン・トランスポーター遺伝子多型に注目し、(1)怒り表情によって導かれる接近・回避の行動は、BIS/BAS、およびセロトニン・トランスポーター遺伝子の個人特性において予測可能であること、(2)そうした個人差はVLPFCの機能により調整されることを明らかにした。さらに、(3)VLPFCによって起動される、知覚される人物との関係性、視点取得能力の個人差に応じた共感性のメカニズムも明らかとなった。
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