顔がヒトにとって特別な刺激であるために特化した顔中枢ができたのか、それとも日常見慣れているために顔中枢ができたのかは結論が出ていない。そこで、種々の実験課題を用いてsubliminal(識閾下)からvisual awareness(視覚的気付き)に関連した脳の中の顔プローブを明らかにする。今年度は両眼視野闘争と顔多義図形に対するプライミング効果を検討した。 (1) 両眼視野闘争:2つの眼に全く異なるパターンが提示されたとき、通常の立体視のような融像は起こらず、2つのパターンが数秒ごとに交互に知覚される。本研究では、「ヒトの顔と家」、「ヒトの顔とサル」、「サルの顔と家」を呈示し、「ヒトの顔」、「サルの顔」、「家」の「見え」に気付いた時の反応特性の違いを誘発γ振動で検討した。心理実験では、「ヒトの顔」が「サルの顔」、「家」の「見え」よりも多く知覚された。128ch脳波計でγ振動を計測すると左中心部から頭頂部にかけて「ヒトの顔」に対してγ振動が優位に観察された。以上より、「ヒトの顔」の特殊性が示唆された。 (2) 顔多義図形に対する正と負のプライミング効果:顔と顔以外の身体部位の多義図形(男と女)に対するプライミング効果を検討した。多義図形知覚時には、この解釈可能な複数の見えの状態が時間とともに交替する。この多義図形知覚に対する先行視覚刺激(識閾下、閾上)の効果をERPで検討した。心理実験では、明らかなプライミング効果を認めた。現在、脳波計測のための実験プロトコルを作成中である。
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