自閉症スペクトラム障害児・者の顔認知の特徴として、目に注目することが難しい、視線の判断が困難である、顔を概念として捉えることが難しい、表情の弁別がつきにくい、表情と情動を結びつけることが困難であることが先行研究で示されてきている。本研究では、それらの社会的機能の獲得過程を、介入研究という手法を用いて明らかにすることが目的である。 平成21年度は、他者の顔を見る行動(アイコンタクト)と言語、認知、社会性との関連を詳細に分析するため、(1)機能や形態別に分けた共同注意と発達指標との関係を調べ、(2)コミュニケーションにおける視線の使用と言語発達との関係を分析した。自閉症児11名と定型発達児4名が研究に参加した。コミュニケーション評価として「初期社会コミュニケーション尺度(ESCS)」、言語社会性と認知適応の尺度として「新版K式発達検査」、社会生活尺度として「SM社会生活尺度」を用いた。その結果、自閉症群においては、言語社会性スコアが高いほど言語やその他の行動を含むコミュニケーション行動を行う際にアイコンタクトを同時に行う割合が低いという結果が得られた。定型発達群においては、言語社会性スコアに関係なくアイコンタクトの同期が見られた。これらの結果は、自閉症児の他者の顔を見る行動は、「要求」などの機能を持つコミュニケーションとして働きうることを示している。また自閉症児の他者の顔を見る行動は、定型発達児と異なり、言語行動などの他の行動と同期しないという特徴があることがわかった。これらの結果から、自閉症児の他者の顔認知の発達促進のためには「顔を見る行動」が強化される機能的条件を設定すること、他の行動と同時に指導するのではなく「顔を見る行動」を独立に指導することが重要であることが示唆された。
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