研究概要 |
錯視は、形、色、明るさ、運動、立体、空間などの視覚の諸属性にわたって見られるが、近年その独立性が確立された顔という属性における錯視研究は少ない。本研究では、顔の錯視に本格的に取り組むことを目的とする。具体的目標は、未知の顔の錯視の発見に努め、顔の錯視の種類を現在より研究期間終了までに倍増させることである。昨年度末の時点で、新しいと考えられる顔の錯視を1種類、既に知られた錯視の亜種と考えられる現象を数種類発見した。 発見された新しいと考えられる顔の錯視は、旧来の分類では形の錯視(幾何学的錯視)であり、「遠位眼の過大視」と名づけられる。正面から顔を少し横に振ったとき、距離的に遠くに位置する目が大きく見えるという現象である。この錯視とその存在には疑問符が付けられている「遠近法的錯視」との関係を検討した。「遠近法的錯視」とはミュラー・リヤー錯視やポンゾ錯視のことであるが、それらとの関係は明確ではなかった。一方、「大きさの恒常性」の名称が使われる奥行き手がかりによる大きさの錯視との関係が考察された。「遠位眼の過大視」には個人差があり、半数以上の観察者は直ちに見ることができるが、刺激画像によっては注意深く観察してもこの錯視が起きない人が存在することがわかった。 そのほか、「顔ガクガク錯視」(顔画像において目や口をコピーして二重にすると顔の知覚が不安定に見える現象)と「眉・口優位性効果」(表情知覚においては目から得られる表情情報よりも眉あるいは口から得られる表情情報が優先し、それらが目の表情に帰属するように知覚されること)の研究成果を論文としてまとめ、投稿中である(Ueda and Kitaoka, in submission; Kitahara and Kitaoka, in submission)。
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