日常生活において、顔の認知は非常に重要であり、その中でも我々は、時間分解能が高く、また体動の制約が少なく認知過程の時間動態を調べるのに適した誘発脳波(ERP)を用いて表情変化に伴う脳活動を調べた。誘発脳波で実験を行う際には、加算平均法を用いるために2枚連続画像を提示した。10~14歳の小児と健常成人を被験者として、以下の3条件を用いた。 1.N-H条件:無表情の顔から急に笑った顔へ変化する(表情の表出)。2.H-N条件:笑った顔から急に無表情の顔へ変化する(表情の消失)。3.EYES条件:突然目がそれる。この刺激が提示された際、被験者にはボタンを押すように指示している。記録は行ってはいない。 左右側頭部のT5(左)、T6(右)電極において、子供では表情変化後210~230ミリ秒後に、また成人では160~190ミリ秒後に陰性波が認められた。成人では子供に比べ、ピーク潜時は有意に短く、振最大幅は有意に小さかった。子供では両電極において、2条件間で、ピーク潜時と最大振幅に有意な差は認められなかった。成人では、ピーク潜時では有意な差が認められなかったが、最大振幅では、N-H条件の方が、H-N条件に比べ有意に大きかった。これらの結果より(1)顔の動きを認知する能力は、14歳の時点では、まだ成熟していないこと、(2)発達過程において、顔の表情認知のパターンが変化していることが示された。
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