研究概要 |
マカクザル下側頭皮質では「顔」画像の呈示に対して応答を示す「顔」応答性ニューロンが発見されている。研究代表者らは、顔を視覚刺激とした実験で、サル側頭葉の単一ニューロンがまずおおまかな分類情報(ヒトかサルか)を処理し、それから詳細な分類情報(個体や表情)を処理していることを明らかにしてきた(Sugase et al., 1999)。また、この時間的なダイナミクスを持った階層的な情報処理を可能にする神経回路をモデル化した(Matsumoto et al., 2005)。 本研究では、「顔」関連ニューロン活動の記録・解析から、下側頭皮質で行われる「顔」の情報処理についての計算理論とアルゴリズムを、神経科学的手法で検証する。視覚経路の最終段階にあるといわれる下側頭皮質で、レベルの異なる分類情報(大分類情報および詳細分類情報)が時間をわけて複合してコードされるメカニズムには2つのモデルが提案されている。1つは、下側頭皮質以前の段階で大分類情報と詳細分類情報がそれぞれ並列に処理されるフィードフォワードモデル、もう1つは、下側頭皮質内でのニューロン同士の相互作用の結果として大分類・詳細分類を生成するリカレントモデル、である。この2つの可能性のどちらが妥当かを検証するため、顔を逆さにして呈示する条件で実験を行った。8個の顔に応答するニューロンに対して調べた。うち4個が顔呈示後の平均発火頻度が変化し、正立顔に比べて倒立顔に対する発火頻度が低下することが分かった。この結果は、倒立顔にすることで下側頭皮質が表現する詳細分類情報が低下していることを示唆する。
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