研究概要 |
東アジアの大気中多環芳香族炭化水素(PAH)とニトロ多環芳香族炭化水素(NPAH)について代表者が主宰する日中韓露四カ国共同研究の一環で,中国藩陽市の市街地2地点において,2007年の冬と夏に1週間ずつ,ハイボリュームエアーサンプラーを設置して,毎日フィルターとカートリッジを交換しながら浮遊粒子状物質を連続捕集した。捕集した試料について,代表者らが開発した超高感度HPLC-蛍光/化学発光法により,benzo[a]pyreneを含む9種類のPAH及び1-nitropyreneを含む5種類のNPAHを分析した。その結果,次のことを明らかにできた。(1) 大気中総PAH濃度,総NPAH濃度は,いずれの地点でもともに冬高夏低の季節変動を示した。著者らが見出した主要発生源特定マーカーである[1-NP]/[Pyr]比の大きさから,瀋陽の冬のPAHの主要排出源は自動車であると推定された。(2)2007年度の大気中PAH濃度は代表者らが既に実施した2001年度より減少していたが,夏のPAH濃度は上昇していた。一方,冬のNPAH濃度はいずれの地点でも2001年度と殆ど同レベルであった。(3)この間に瀋陽の大気中PAH濃度が低下した理由として,瀋陽市が積極的に進めてきた旧式暖房用石炭ボイラーの撤去や工場の郊外移転などの環境汚染対策が有効に寄与したと考えられた。(4)この間に瀋陽の大気中NPAH濃度が変化しなかった理由として,著者らが見出した主要発生源特定マーカーである[1-NP]/[Pyr]比が夏,冬ともに上昇したことから,近年急増している自動車(瀋陽市の自動車登録台数:36万台(2000年)→56万台(2007年))の排ガスの影響が増大していることが推定された。
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