研究領域 | 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 |
研究課題/領域番号 |
21H00005
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
三田村 哲哉 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (70381457)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | トルコ / コンスタンティノープル / ジョゼフ=アントワーヌ・ブヴァール / アンリ・プロスト / 都市計画 / 美化 / 改良 |
研究実績の概要 |
フランスは、20世紀前半にミュゼ・ソシアルの建築家・都市計画家・造園家らを中心に、前世紀の都市改良とは異なる新たな都市計画、ユルバニスムに基づく都市事業を国内外で展開するようになる。フランスが国外で実施した地域は世界各地に広がっているが、そのうち主なものは1930年代初頭に絶頂期を迎えた領土拡大に合致して、アフリカからアジアまでである。こうした都市事業の中心人物の1人にモロッコからトルコまでの地中海都市を中心に活躍したアンリ・プロストがいる。 本研究課題は、20世紀前半の東洋の建築と都市に焦点を当て、各都市で提案・実施された都市計画の史実と建築家らの功績を明らかにし、フランス近代建築史におけるユルバニスムの位置付けに寄与する基礎資料の一端を準備することにある。初年度の考察対象はトルコで、研究実績は、ユルバニスムに基づく都市計画を遂行したプロストの提案と、それ以前にコンスタンティノープルで尽力したジョゼフ=アントワーヌ・ブヴァールの功績を比較し、両者の差異を明らかにしつつ、ユルバニスムの新たな特徴を描き出したことである。こうした観点に基づき、本研究では次の3点を指摘した。第1は、ブヴァールが記念建造物の新設による美化という理想案を提示したのに対して、プロストは不良地区の改善と法整備を踏まえた上で、交通網の改善や広場の整備等に着目した改良による現実案を遂行した点である。第2は、ブヴァールによる美化は都市の西洋化であり、古典主義に基づいた建築によるものであったのに対して、プロストによる改良は、都市の近代化をその基盤整備という形で顕在化させた点である。第3はトルコ革命の前後で提案されたブヴァールとプロストの都市計画にはこうした大きな相違点があるが、タンズィマートの延長線上にある近代化を西洋化とする基本原則は、美化と改良の両者に通底していたという点である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
20世紀初頭のフランスでは、前世紀の都市改良とは異なるユルバニスムという新たな考え方に基づいた都市計画を手掛ける建築家、都市計画家、造園家らが登場する。そのうちミュゼ・ソシアルの都市・農村衛生部会に所属する10名ほどの建築家らがフランス都市計画家協会の設立、フランス初の都市計画法、コルニュデ法の制定(1919)と改定(1924)、ランスにおける最初期の田園都市の実現、都市計画に関する国際会議や展覧会の開催、雑誌「ユルバニスム」の創刊などとともに、戦間期を中心に国内外で数多くの都市計画を提案・実施した。本研究課題は、ユルバニスムに基づく都市計画とそれ以前に提案された都市計画の比較考察に基づき、こうした新たな都市計画に関する考察の深化を目指したものである。当初の研究実施計画は、第1に上記の通り、ユルバニスムに基づくプロストによる都市計画と、それ以前に提案されたブヴァールによる都市計画の比較考察であり、当初の目的であった両者の差異からユルバニスムの特徴とブヴァールの功績を明らかにした。第2は、ブヴァールがコンスタンティノープルに尽力した前後に、フランスの建築教育を受けて、同地の近代建築に貢献したアレクサンドル・ヴァロリ(1850-1921)等に関する考察である。協働者ライモンド・ダロンコ(1857-1932)とともに考察を進める。第3は、東洋趣味に関心を抱き、エジプトのヘリオポリスからインドを経て、プロストの後を引き継ぎ、在日本国フランス大使館案を残したアレクサンドル・マルセル(1860-1928)の西アジア都市他における功績に関する考察である。本研究課題の主な考察対象はこれらの3点で、最終年度の課題、第2点目と第3点目に必要な資料の手配や基礎調査などは概ね順調に進んでおり、現在までの進捗状況は、総合的に捉えて、おおむね順調に進展していると捉えることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、前世紀の都市改良とは異なる20世紀の新たな都市計画ユルバニスムに関する考察の深化を図るために、その中心人物の1人であるプロスト以前に東洋の諸都市で尽力した建築家、都市計画家、造園家に焦点を当て、その前後両者の比較考察に基づき、ユルバニスムの新たな一面を描き出すことを目指したものである。 今年度の研究対象は、初年度に準備を進めたブヴァールと同時に、フランスで建築教育を受けてコンスタンティノープルの近代建築に尽力したヴァロリらと、東洋趣味に関心を抱き、その諸都市を訪問して各地の建築・都市に尽力したマルセルで、両者の功績を明らかにしつつ、ブヴァールに関する考察と同様に、それぞれ両者の照合によって、建築・都市の近代化におけるユルバニスムの果たした役割を明らかにする。 今年度前半の考察対象は、ヴァロリらのコンスタンティノープルに尽力した建築家で、協働や影響で関係の築かれたイタリアの建築家ライモンディ・ダランコ(1857-1932)らも踏まえて描き出すことを試みる。 今年度後半の考察対象は、マルセルが手掛けたヘリオポリス他における功績である。マルセルに関しては在日本国フランス大使館案に関する考察で、すでにプロストとマルセルの協働を明らかにした建築家で、今年度の課題は同大使館案以前のマルセルによる建築・都市である。最終年度はブヴァール、ヴァロリら、マルセルによる西アジア都市を中心とした実績を踏まえつつ、それ以後のプロストによる事業との比較考察をまとめ、ユルバニスムに基づいた都市事業の特徴の新たな一面、つまり20世紀前半のフランス都市計画ユルバニスムのうち、国外で実施された事業の中心地の1つが、ユルバニスムの萌芽の前後で都市に対する提案が大きく変化したコンスタンティノープル他、西アジア都市であったことを描き出すことを目指す。
|