研究領域 | 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 |
研究課題/領域番号 |
21H00006
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
沼本 宏俊 国士舘大学, 体育学部, 教授 (40198560)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 北メソポタミア / テル・サラサート / ニネヴェ5土器 / ハブール土器 / 土器編年 |
研究実績の概要 |
東京大学総合研究博物館6階に保管されているテル・サラサート遺跡Ⅰ号丘、Ⅴ号丘の第四次発掘調査で出土したニネヴェ5土器と古バビロニア土器の未公表資料の整理・分析を行った。 Ⅴ号丘出土のニネヴェ5土器の整理分析:同館にはテル・サラサートⅤ号丘出土のニネヴェ5土器資料(前28~27世紀)が約7トン保管されている。研究代表者は1995~96年に科研費の採択を受け、同資料の研究調査を行った。日乾煉瓦造の穀物倉庫と円形遺構から出土した土器を整理した結果、彩文土器: 514点、刻文土器: 336点、灰色土器: 1164点が存在することを確認し、これらの土器の整理分析はほぼ終了している。これらの土器の出版に向けて各種土器を見直し、詳細な観察と写真撮影を行った。同時にこれらの土器を近年の他遺跡の調査で出土した資料と比較、再検討し、ニネヴェ5期での正確な年代付を検討した。また、素文の中・大型土器、粗製土器の大半は未整理であり、これを選別し実測図化、ならびに写真撮影を行った。 Ⅰ号丘出土古バビロニア土器の整理分析:1965~66年に調査した1号丘頂部出土の古バビロニア時代(前20~18世紀)の土器資料が約1トン保管されている。1.発掘調査日誌、遺物台帳、出土遺物実測図、遺構図等の全ての調査資料を見返し、土器資料と出土地を照合し再検証した。2.保管土器は第一層の特殊な埋葬施設と推測される6つの小部屋と地下式石積み遺構から出土しており、まず各部屋・地下式遺構ごとに土器を分類した。3.上述の出土地から計約700点の土器を抽出し、ハブール土器等の特徴的な器形を選別・分類し、実測図化、観察、写真撮影、トレースを行った。特に埋葬小部屋の一つC1と地下式石積み遺構R4の出土品に重点を置いた。4.テル・タバン出土の古バビロニア土器と比較し、第一層の埋葬遺構の正確な年代を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ニネヴェ5期と古バビロニア時代の膨大な土器資料を研究分析するためには、資料の実測図化、観察、写真撮影、トレース等の地道な作業が研究の基本である。こうした作業遂行には専門知識を有した研究者の協力が不可欠である。研究期間内に目的を達成するには複数名の研究協力者が必要であるが、現状では確保できていない。故に上述の基礎作業に遅れが生じている。さらに当該年度はコロナ感染拡大の影響もあり、同館への出張調査を控えたため予定通りに研究を遂行することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
Ⅴ号丘出土のニネヴェ5土器の整理分析:今後はこの資料を更に多方面から統計的に解析し、編年、土器の用途、生産体系、建物の機能、さらにはこの時期の社会構造の解明を目指す。 サラサートⅤ号丘出土のニネヴェ5土器分析研究を遂行することにより、今後は以下の諸問題について究明したい。1)ニネヴェ5期文化の編年と社会構造を解明し、2)土器の様相とその変化を通じて村落社会から都市化への変遷過程とその背景を探り、3)南北メソポタミアの土器編年の相互関係を追求して、シュメールの都市文明と北メソポタミアとの文化的関連を比較研究する。 Ⅰ号丘出土古バビロニア土器研究:1.Ⅰ号丘の古バビロニア土器資料の整理分析での最大の成果は、同時代では類例のない王墓クラスと推測される地下式墓の正確な年代を提示できたことである。2.第一層の埋葬遺構からの出土土器は前19世紀初頭に相当することが分かった。出土土器をさらに詳細に整理分析し、他遺跡の出土品と比較することにより正確な年代を提示することが可能である。3.1976年度に調査した第二層の祭祀遺構出土の土器は保管されていないため、現地で作成された実測図の整理、トレースを行う。さらに第二層の埋葬・祭祀遺構図の整理を行い、正確な遺構の機能と正確な年代を特定する。 4.出土土器の自然科学的分析を行い、メソポタミア北東部と北西部での土器交流のあり方を探る。5.同時代の土器組成と編年を究明し、さらに検出した遺構の詳細な分析を行い機能を特定したうえで、研究成果を公表する。令和5年度には成果を公表する。最終的には未刊のⅠ号丘の発掘調査報告書の出版を目指す。
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