予定していた2022年夏季のイスラエルの下ガリラヤ地方東部にあるテル・レヘシュにおける現地発掘調査も、2020年以来全世界で猛威を振るっている新型コロナウィルス蔓延のために実施できなかった。そのため、本研究の核心を成す放射性炭素同位体による年代決定に使う年代サンプルの収集も大変残念ながらまったく実施することがかなわなかった。しかし、現地へ渡航することはできたため、2022年の8月と2022年12月から2023年1月にかけて、特に2006年度から2010年度の調査において検出した遺構や収集した遺物の分析を進め、発掘調査報告書の形にまとめる作業を実施した。全部で21章から成る報告書のうち、すでに18章を校閲に出しており、2023年度中に出版される見込みである。 こうした研究の結果、テル・レヘシュにおける後期青銅器時代から初期鉄器時代への移行期における都市変容のあり方について、絶対年代を決定することは難しいものの、以下の点が明らかになった。 第一に、テル・レヘシュにおいては、後期青銅器時代から初期鉄器時代にかけて、物質文化が継続しており、大規模な破壊は見られないこと。破壊はむしろ初期鉄器時代に入ってしばらくしてからその部分的な痕跡が認められる。 第二に、テル・レヘシュにおける後期青銅器時代から初期鉄器時代は都市が最も繁栄した時代であったこと。この時代に、他では稀にしか見られない、城壁を伴なわい城門が建設されるなど、都市としての権威を示威するような建築物が建てられた他、公的なスペースにオリーヴ搾油施設が複数建設されるなど、産業も盛んとなった。 こうしたことから、これまで「暗黒時代」と考えられてきた同時代において、南レヴァント北部の人々はそれまでの社会生活形態を踏襲しつつも、新たな時代を切り拓くような試みを展開していたと結論できよう。
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