研究領域 | ハイドロジェノミクス:高次水素機能による革新的材料・デバイス・反応プロセスの創成 |
研究課題/領域番号 |
21H00025
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中西 匠 九州大学, 先導物質化学研究所, 学術研究員 (40836425)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プロトン移動 / スピン転移 / 遷移金属錯体 / 光応答 / 電場応答 |
研究実績の概要 |
本研究ではプロトン移動とスピン転移が連動して発現する現象(プロトン結合スピン転移現象、PCST)に基づく分極の光制御および磁性の電場制御が可能な分子性材料の開発を目的に、新たな配位子設計に基づくプロトン結合スピン転移錯体の開発および固体中における新規プロトン移動現象の開拓を行った。N・・O間で非常に短い分子内水素結合を形成する三座配位子を新たに設計し、この配位子が実際に熱誘起スピン転移に伴いプロトン移動を発現することを単結晶X線回折測定により明らかにした。特に高スピン状態に対応する高温相でのプロトン化状態については、J-PARCにおける単結晶中性子回折測定を行うことで、過去に報告されている類似体のプロトン化状態とは異なるプロトン化状態であることを明らかにした。また光誘起スピン転移と連動したプロトン移動の発現についても光照射前後での単結晶X線回折測定により明らかにすることが出来た。この新たな配位子の設計を基盤に従来の三座型のプロトン移動配位子を二座や四座配位子に拡張すると共に、キラル部位の導入や他の機能部位を導入した配位子の開発を進めている。 また従来の分子設計に基づくプロトン結合スピン転移錯体についても、巨大結晶を形成するプロトン結合スピン転移錯体を新たに開発し、単結晶中性子回折測定によるスピン転移前後でのプロトン位置の直接観測を行った。スピン転移前後の温度領域における単結晶中性子回折測定により得られた構造から、実際にプロトンに由来する核密度がスピン転移に伴いヒドラゾン部位の窒素原子の近傍からピリジン環の窒素原子の近傍に移動していることを確認した。この結果から、プロトン結合スピン転移錯体では実際にスピン転移に伴いプロトンの移動が起きていることが裏付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロトン結合スピン転移を発現する錯体を構築可能な新たな配位子設計を開拓することが出来たため。この配位子の設計は二座や四座配位子への拡張が可能であり、またキラル部位や他の機能性部位を導入することも可能であることから、分極の光制御および磁性の電場制御が可能なプロトン結合スピン転移錯体を実現する際の課題である、極性結晶を形成する錯体の開発に利用できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の土台となるプロトン結合スピン転移錯体の設計の拡張を主に行う。新たに設計した分子内水素結合を有する二座配位子を用いてスピン転移およびプロトン移動を発現する鉄二価錯体の開発を行う。二座配位子については特にキラル部位を導入した配位子を用いることで極性結晶を形成するプロトン結合スピン転移錯体の開発を行う。また新たに開発した配位子の設計は分子間プロトン移動を示す錯体の配位子設計にも応用出来ると考えられる。置換基を変更した配位子を新たに開発することで分子間型のプロトン結合スピン転移錯体の開拓も並行して行う。これまでに得られている極性結晶を形成するプロトン結合スピン転移錯体については分極の熱および光応答性、構造および磁性の電場応答性について検討を行う。
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