ランタン水素化物(La-H)について高圧力下で冷却と加熱を繰り返し行うと超伝導転移温度が550ケルビン(277°C)に到達することを2020年に米国のグループが報告した。水素供給材として使用されたアンモニアボラン由来のホウ素(B)や窒素(N)が加熱の際にLa-Hに取り込まれて超伝導性が増大した可能性が考えられているが、その詳細は不明である。これについての知見を得るためには、La-B-N-H系の高圧力下における安定組成と安定構造を決定し、その超伝導性を調べることがまず必要となる。そこで本研究では、これまでの研究で開発した「進化的アルゴリズムによる形成エネルギー凸包構築手法」と第一原理計算を組み合わせてLa-B-H系及びLa-N-H系の安定相と超伝導相を探索し、550ケルビンの超伝導について検証を行う。 2021年度は本研究の準備と、250万気圧下におけるLa-B-H系への適用を開始した。2022年度はこの研究を継続しつつ、新たに100万気圧下におけるLa-B-H系及び20万気圧下におけるLa-N-H系へ適用させた。250万気圧下におけるLa-B-H系ではLa2B3H30などが安定相として出現し、超伝導転移温度が最高で63ケルビンとなることを予測した。100万気圧下におけるLa-B-H系でもLa2B3H30などが出現して最高で51ケルビンの超伝導となることを予測した。また、20万気圧下におけるLa-N-H系では、La3NH4などが出現し、超伝導転移温度は9ケルビン程度であった。これらの結果をまとめると、両系とも超伝導転移温度は550ケルビンには到底及ばないためBやNはLa-Hに取り込まれた物質ではないと結論づけた。一方、本研究を遂行することによって実験で合成可能な新規超伝導相を複数予測することができたため、今後は実験グループとの共同研究によってそれらの実証を目指す。
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