人類の住む天の川銀河は1000億個程度の恒星が分布している。これらの星々の大多数は円盤部に分布しており、太陽と似たような運動をしている。一方、銀河系の数パーセントの星はハロー部に分布しており、太陽から見て大きな相対速度で運動している。銀河系のハローは小さな矮小銀河が衝突と合体を繰り返して現在の姿となったと考えられているが、衝突した矮小銀河の大半は宇宙初期の段階で主な星形成を終えている。したがって、これらの矮小銀河に由来するハロー星は、宇宙初期における星形成プロセスを知る上で貴重な情報源である。また、ハロー星は様々な星形成環境を反映して多様な化学組成を示している。 宇宙における星形成プロセスを理解する上で、特に極限的な環境で形成されたハロー星を解析することは重要である。中性子が過剰に存在する環境では、r-processと呼ばれる元素合成過程が行われることが知られているが、r-processによって合成された元素を大量に含む星(r-II stars)の性質を調べることで、宇宙のどのような場所でr-processが生じているのかを知ることができる。そこで本研究では、r-II starsの起源を調べるため、太陽近傍のr-II starsの運動状態を詳細に調べた。その結果、r-II starsの中には、非常に似通った軌道をもつグループが存在することが判明した。 この結果は、以下のようなシナリオで説明できる。(1)銀河系の周辺に存在していたいくつかの矮小銀河の中でr-processを伴う高エネルギー現象が生じ、その内部でr-II starsを多数形成した。(2)r-II starsに富んだ矮小銀河が銀河系に衝突し、潮汐力によって完全に破壊された。(3)r-II starsが銀河系ハローにばら撒かれた。このシナリオは、r-II starsの起源を解明する上で重要な成果だと言える。
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