研究領域 | 新しい星形成論によるパラダイムシフト:銀河系におけるハビタブル惑星系の開拓史解明 |
研究課題/領域番号 |
21H00055
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
青木 和光 国立天文台, TMTプロジェクト, 准教授 (20321581)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | M型矮星 / 化学組成 / 系外惑星 |
研究実績の概要 |
すばる望遠鏡IRD による系外惑星探査プログラムの対象となっているM型矮星のうち、プログラムの早い段階で良質のスペクトルが取得された13天体について、化学組成の測定を実施した。従来の研究では、詳しい化学組成が得られていたのは早期M型星(有効温度3500K以上)であったのに対し、この研究では中期M型星(3000K前後)にまで対象を拡大し、より小質量の星の周りでの惑星探査に対応して主星の特徴を明らかにすることを可能とした。さらに、最近公表された位置天文学衛星Gaiaのデータを用いてこれらの星の銀河系内の運動の特徴も確認した。多くの星は太陽に近い化学組成をもつ、「薄い円盤」に属する星であることが確認されたが、中には低金属の星や太陽とは異なる組成比(α元素と鉄の組成比など)をもつものも見つかり、銀河系の化学進化の研究の観点からも興味深い結果が得られた。結果は査読論文として公表した(Ishikawa et al. 2021)。 また、IRDを用いて取得した低金属量の星の組成解析も実施し、可視光域ではごく少数のスペクトル線しか検出できていないケイ素とストロンチウムについて、近赤外域では多数のスペクトル線を用いて格段に高い精度で組成を測定できることを実証した。結果は査読論文として公表した(Aoki et al. 2022)。この2元素は化学進化の研究上も重要な元素であり、今後観測を拡張することで銀河の化学進化の理解に貢献できる見通しである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IRDの観測にもとづくM型矮星の化学組成の測定は順調に進んでおり、初期の成果を査読論文として公表することができた(Ishikawa et al. 2021)。IRDの観測は継続され、ほぼ全サンプルについての組成解析が可能になりつつある。本年度の成果としては、組成解析の手法を確立し、特に解析に必要な有効温度の決定方法を複数試みて、信頼性を向上させることができてきたことが大きい。次年度にこの解析を全サンプルに適用する見通しがたっている。研究成果はアストロバイオロジーセンターとすばる望遠鏡からウェブリリースし、市民向けにも情報発信を行った。 低金属量の星の解析も、IRDの特色を活かして銀河の化学進化の解明につながる研究であり、初期の成果を査読論文として公表することができた(Aoki et al. 2022)。
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今後の研究の推進方策 |
次年度にはM型矮星の化学組成測定を、IRD による系外惑星探査プログラムの全対象星に拡張し、太陽近傍におけるM型矮星の化学組成分布を明らかにする。惑星探査の結果も出つつあり、惑星を持つことが明らかになった星については重点的に化学組成の特徴を調査し、惑星の存在との関連を考察する。また、Sr/Mg比を用いた星の年齢への制限を試みる。 IRDによる低金属量の星の化学組成の測定についても、新たな観測データが2022年3月に取得できており、その解析により、ケイ素とストロンチウムをはじめとする、近赤外域での測定に優位性のある元素の組成の測定を進め、化学進化を明らかにする。
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