研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
21H00065
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内山 雄祐 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任助教 (90580241)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レプトンフレーバーの破れ / 大統一理論 / 機械学習 / 飛跡検出器 |
研究実績の概要 |
本研究課題では荷電レプトンのフレーバー非保存現象の一つであるμ→eγ崩壊を世界最高感度で探索することで,大統一やバリオン生成の機構を実験検証し,ニュートリノに秘められた物理の全貌解明を目指している。当該年度はスイス・ポールシェラー研究所の世界最高強度の直流ミュー粒子ビームを用いて,μ→eγ崩壊を探索する実験を開始することに成功した。9月から11月にかけて取得したデータにより,データ量は実験全計画で取得するデータ量の10分の1以下であるが,前実験に匹敵する感度でのμ→eγ崩壊探索が可能となる。 これを実現するために(1)ドリフトチェンバー運転パラメータの最適化による安定運転とS/N改善,(2)データ収集・トリガーシステム・トリガー用検出器のコミッショニングとオフライン解析システムの構築,(3)取得したデータの迅速な較正・アライメント・性能評価を現地ポールシェラー研究所に滞在し研究協力者と連携して行った。ドリフトチェンバーとタイミングカウンターを合わせた一連のトラッキングアルゴリズムを開発し,陽電子飛跡を用いた性能評価および感度計算を可能とした。タイミングカウンターの較正・解析を完了させ,40 psを切る時間分解能を達成した。 当該年度2021年の実験で見えた課題の解決に向けて,データ収集終了後は検出器のメインテナンスおよびシステムの改善作業に取り組み,次年度以降の実験の安定かつ高効率なデータ取得をスムーズに開始する準備を進めた。 また,波形データ解析に機械学習を応用することで,従来のディジタルフィルターベースの波形解析の限界を突破する新しい解析手法の開発を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では当該年度は検出器の運転の最適化と最終試験データの取得を目指していたが,検出器の調整・較正およびデータ収集システムのコミッショニングを順調に進めることができたため,結果物理解析に使用できるデータを収集することができた。つまり,本実験を開始でき,国際共同実験MEG IIを大幅に進展させる成果を本研究課題において達成できたため,計画以上の進展と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は長期にわたる安定データ収集を実現し,データ統計量をできる限り多くためていくことが最重要となる。そのために,本年度の運転経験をもとに,検出器の運転パラメータや較正計画をさらに最適化していく。本年度,実験開始に結び付けることに成功したが,データ量の制限より,前実験の感度を超えることはできない。最終年度となる次年度は半年間のビームタイムをフル活用して最高感度を達成するデータ取得を行う。 一連の検出器の較正・再構成手法を確立し,本年度取得したデータを用いたμ→eγ崩壊探索解析を完成させ結果をパブリッシュする。そのためには,実データに基づいたデータ解析は初の試みとなるため,今後様々な観点から較正データおよび物理データを分析して,系統誤差を理解・低減し,背景事象を分離する解析手法を確立する必要がある。 さらに,より良い分解能・検出効率を達成するために較正・再構成アルゴリズムを洗練させていく。特に,ドリフトチェンバーの再構成効率が現状,高ビームレート下で低下しているために,ビーム強度を上げられないという課題がある。今年度研究を進めた機械学習を用いた手法をデータに適用させ,再構成効率の向上を図る。
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