研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
21H00067
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白井 智 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任助教 (10784499)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 宇宙背景ニュートリノ / 暗黒物質 |
研究実績の概要 |
標準宇宙論は、ラムダ-CDMモデルとも呼ばれ、宇宙の初期から現在までの歴史と進化を記述する枠組みである。標準宇宙論は、一般相対論をもとにして、素粒子標準模型の観測パラメータに加えて、宇宙論に関する数個のパラメータを加えることで、宇宙マイクロ波背景放射、軽元素の存在量、物質の大規模分布など、宇宙の性質について正確な予測を行っている。そして、一般相対論や標準模型に少し補正を入れると、直ちに宇宙論的観測と矛盾してしまう。そのため、重力理論、素粒子物理学、宇宙論などの基礎物理学の実験場である。標準宇宙論は、これらの理論を観測データで検証し、制約するための枠組みを提供する。本研究計画では特に初期宇宙に生成された宇宙背景ニュートリノを用いて、新物理を探っていこうという計画である。 特に注目したのはメディエイターと呼ばれる粒子の存在である。標準模型に暗黒物質の候補となる粒子が存在しないため、ダークセクターと呼ばれる暗黒物質を含む新しい素粒子模型を導入される。標準模型とダークセクターは完全に独立したとすると、また過剰エントロピーによる宇宙論的があるため、この2つを結ぶ粒子、メディエイター、が導入される。本研究ではこのメディエイターを宇宙の精密測定を通じて探ることを目標にした。 2021年度ではスカラータイプのメディエイターについて宇宙論的制限を与えることに成功した。この結果によって、他の地上実験からは全く届かないようなパラメータ領域についても制限をかけることが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スカラータイプのメディエイターを標準模型に加えた宇宙論を考察した。たったひとつ標準模型にスカラー粒子を加えただけで、宇宙の発展のしかたは大きく変わり、その計算も極めて複雑になった。非摂動効果やスカラー場の自己相互作用の効果を取り入れると、当初の想定以上に物理が複雑になったが、最終的には新しい制限を得ることができた。これらの研究の過程で得られた知見も多くあり、ほかの様々な模型についても応用ができると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画の遂行には、初期宇宙でのダークセクター粒子の生成・崩壊や標準模型粒子間の相互作用への補正などを取り入れて、宇宙の発展方程式を解く必要がある。必要な計算手法はおおよそ完成したと考えられるので、それをより幅広いダークセクター模型に適用する予定である。またどのダークセクター模型を調べるのを選定するのに、背景ニュートリノ以外の宇宙論、最新の実験結果や量子重力理論の最近の発展を取り入れた解析も同時に行う予定である。
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