研究領域 | ニュートリノで拓く素粒子と宇宙 |
研究課題/領域番号 |
21H00071
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
安達 俊介 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (80835273)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電波吸収体 / 熱収縮率測定系 / 素材選定 / 金属3Dプリンタ |
研究実績の概要 |
本研究は、高感度ミリ波受信技術の下支えとなる電波吸収体「黒体」の開発研究である。電波望遠鏡といったミリ波受信機は、極低温・超伝導を用いた高感度センサに加えて、地上の熱放射からくるノイズを極限まで抑えるための黒体が必須である。黒体は極低温に冷やされた望遠鏡の内壁を覆うようにインストールされ、窓から入ってくる熱放射を吸収してセンサに熱放射が届くのを防ぐ役割を果たす。黒体に要求される性能としては、高吸収率、極低温で冷えること、望遠鏡の内壁の素材である金属、特にアルミに接着可能であることが実用上必要とされる。 本研究者は樹脂3Dプリンタのピラミッド型に電波吸収素材を注入して製造する「3Dプリンタ型黒体 (RAM-3pm)」を編み出した。この黒体製造方法を元に新た黒体を開発する。 具体的には電波吸収素材を選定し、その接着可能性、つまりは低温での熱収縮率がアルミと同程度であるかを評価する必要がある。 今年度は、まず過去の素材の選定結果をまとめた。Stycast と呼ばれる低温アルミ用エポキシ接着剤にカーボンファイバーを添加したものが吸収率の点で優れているということが判明したので、その結果を学術論文にまとめた。 この Stycast とカーボンファイバーで製造した RAM-3pm の低温での熱収縮率を評価するために変位センサとサンプルを測定する治具を設計・製造した。 またこの黒体とは別に、新たに金属3Dプリンタを用いた黒体の開発にも加えて挑戦した。金属は電波をほとんど反射してしまい吸収する割合が少ないが、表面にピラミッド構造をつくることで反射回数を上げ、実効的な吸収率を上げられる可能性がある。実際に製造し、樹脂3Dプリンタと同様に歪みの少ない微細なピラミッド形状が製造できることを確認し、さらに吸収率の測定もおこなった。予想通り金属でもある程度の吸収が見込めそうな結果となったが、更に精査する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の主な進捗としては、今までの吸収材の素材選定結果を学術論文にまとめ投稿すること、RAM-3pm の製造方法での素材の評価の1つである熱収縮率測定系の設計・製造をおこなったことである。まだ熱収縮率の測定まですすめることはできていないが、計画当初には予期していなかった、金属3Dプリンタを利用した新たな黒体開発にも挑戦し、実際に製造・光学測定をおこなうことができたので、概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず熱収縮率の評価を行い、Stycast とカーボンファイバーの電波吸収素材で作る RAM-3pm が熱収縮率の観点でアルミに接着可能であるかを評価する。さらには、実際に極低温受信機に多数のピースを接着剤(Stycast)を用いて接着させて、冷却を繰り返し、実際に接着させても問題が無いかを確認する。 一方で、金属3Dプリンタによる黒体に関しては、今までの評価では反射率を測定することで評価したが、この場合は入射角と異なる方向へ反射した光(散乱光)のパワーを見逃している可能性がある。今度は黒体を高温にして黒体輻射をさせ、その放射のパワーを測定することで放射率=吸収率を評価できないか計画している。
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