これまで素粒子標準理論では説明のできない素粒子現象がさまざまな実験から報告されてきた。これらの結果は、素粒子標準理論を超える新しい物理理論(新しい素粒子の法則)が存在することを示唆している。とくに、2022年度のはじめにフェルミ国立加速器研究所からWボソン質量の新しい測定結果が発表された。この結果はテバトロン衝突型粒子加速器(2011年に運転を終了)で蓄積された全実験データに基づいており、驚くべきことに素粒子標準理論の予想から7シグマもずれていた。その一方で、新しい結果は過去の他の実験結果とも一致しておらず、このずれの原因の解明が素粒子実験における今後の課題となっている。しかし、将来の実験によりテバトロン実験の正しさが検証された場合、新しい素粒子の法則の存在を強く裏付ける証拠となる。そのため、この結果に触発されて、これまでに多くの理論モデルが提唱されてきた。その多くは素粒子標準理論のヒッグスセクターに関するものであったが、それに対して、我々はこの結果が電子とミューオンの間に新しい相互作用を導入することで説明できることを指摘した。このようなモデルでは、レプトン間だけではなくレプトンとクォークの間に新しい力が働く可能性もあるため、Wボソン質量の測定以外の他の実験からモデルが強く制限されている可能性がある。我々は、代表的ないくつかのモデルが、電弱精密測定や他の実験結果と矛盾せずにテバトロン実験の結果を説明できることを示した。さらに、近い将来LHC実験で新しい粒子が観測される可能性を指摘した。
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