研究領域 | ミルフィーユ構造の材料科学-新強化原理に基づく次世代構造材料の創製- |
研究課題/領域番号 |
21H00094
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉田 英弘 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (80313021)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | セラミック / ミルフィーユ構造 / キンク / 塑性変形 / 通電焼結 |
研究実績の概要 |
セラミックスの通電支援焼結法とその関連技術を利用した、異方性配向組織を有する酸化物セラミックス複合材料の創製、およびその変形試験を実施した。材料創製に関しては、非常に簡便にAl2O3-Gd2O3コンポジットからAl2O3-GdAlO3(GAP)共晶組織を作製することができ、また容易に急冷処理を施せる利点から、層間距離200nm程度の微細な共晶組織を得ることが可能になった。このとき環境温度(炉温)も1400Cで十分である。通常の高温溶融から冷却する場合には1850Cからの冷却が必要で、材料が破壊しないような冷却速度を採った場合層間距離は500-600nm程度である。すなわち、通電支援焼結がこうした微細組織の形成に非常に有利であることが明らかとなった。さらに、A02公募班・増田紘士博士との共同研究により、製造した異方性配向組織をFIBを用いてナノピラーに加工し、ナノインデンターを利用して、配向組織に対して様々な方向から圧縮機械試験を行った。その結果、その変形挙動は結晶成長方向と圧縮方向との角度に依存し、約16度以下ではほぼ脆性破壊、それ以上では降伏挙動とその後に続く塑性変形と加工硬化を示すことが明らかとなった。その変形および破壊挙動は、硬質相であるAl2O3のそれとは全く異なるものである。さらに、変形後の試料形状を観察すると異相界面の剥離が起こっておらず、むしろAl2O3相とGAP相が協調するような塑性変形が認められた。この変形挙動は従来の構造セラミックスではほとんど報告例は無いと思われ、変形のメカニズム、また変形後の材料の機械特性に興味が持たれる。今後、よりミルフィーユ構造的な微構造を有するセラミックスを創製すると共に、これらの特異な変形挙動、また変形後の詳細な微細組織観察を行うことで、ミルフィーユ材料科学の構築に貢献できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、フラッシュ現象を中心とした通電支援焼結技術を駆使し、高強度構造セラミックスにおいて高度に制御されたミルフィーユ構造を創製すると共に、そのキンク変形帯の導入および力学特性を調査し、変形帯の導入に伴う機械特性の向上を目指している。実際、フラッシュ現象を中心とした通電支援焼結技術を駆使し、Al2O3-GdAlO3(GAP)共晶系高強度構造セラミックスにおいて高度に制御されたナノメートルスケールの微細構造を創製すると共に、その試料の圧縮機械特性を系統的に調査し、圧縮軸方向に依存してユニークな塑性変形が起こることを立証した。さらに圧縮方向に依存して加工硬化を伴う塑性変形を示すこと、塑性変形後に層間剥離を起こさないことを微細組織観察で明らかにした。こうした変形挙動は通常脆性的である構造セラミックス(例えば単結晶Al2O3)と比較して極めて特徴的であり、高強度構造セラミックス材料の信頼性の飛躍的向上にも繋がると期待される。 今後、さらにキンク変形帯の導入および力学特性を調査し、変形帯の導入に伴う機械特性の向上を実証できれば、MFS材料科学を構造セラミックス材料の分野に展開し、当該研究分野の発展に大きく寄与するのみならず、構造セラミックス材料の実用を拡大するものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きAl2O3-GAP共晶系材料を中心に材料創製を進め、特に微細且つ明確な積層構造を配向させたミルフィーユ構造セラミックスの創製を実施する。これまでに創製した材料においては、硬質相Al2O3の中にロッド上の第二相が析出する傾向が強いことが判明したが、本来のミルフィーユ構造である面状積層構造を探索し、これについての機械試験を行うことが必要である。 またこの試料から、FIB加工によってマイクロピラーを作製し、ミルフィーユ構造を有する各種構造セラミックス試料を引き続き準備して機械試験を行う。マイクロピラーに対して圧縮試験を系統的に実施する。特に降伏挙動とその後の加工硬化挙動を詳細に調査し、組織変化、転位と異相界面の相互作用などに注目しながら塑性変形挙動の解析を進める。 一方、変形量をパラメータとして変形後の試料を複数用意し、その材料組織をTEM等により観察して結晶回転、またキンク変形帯の有無を調査する。また硬質層/軟質層異相界面の構造、変形後の異相界面の状況をさらに詳しく観察し、変形に伴う界面剥離の有無を確定する。
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