研究実績の概要 |
主鎖型液晶性高分子が形成するスメクチック層構造が軸方向に積層したモノドメイン液晶繊維試料を調製,液晶温度で延伸することで,下記3種の繊維を得た.繊維A:層が軸方向に積層した繊維(未延伸試料),繊維B:層が軸方向に傾いた方向に積層した繊維,繊維C:層が分断し,繊維軸に垂直方向に広がった回折スポットを与える繊維.さらに繊維Cを液晶温度で熱処理して繊維Dを調製した.繊維Dは繊維Cで分断した層が熱処理で元の形態を回復し,繊維Aと同等のX線回折パターンを与えた.これら4種の繊維A~Dの応力ひずみ測定を行うと,繊維Aはヤング率E = 0.33 GPa, 降伏応力σy = 33MPa,破断ひずみεb = 30%を与えるのに対し,繊維BはE =0.38 GPa, σy = 20 MPa,εb> 290%(装置測定限界)であり,高い靭性を示した.繊維Cは,E = 0.97 GPa, σy = 82 MPa,εb = 53%であり,高い降伏応力を示し,力学的な強化がなされていた.繊維DはE = 0.74 GPa, σy = 0.25 MPa,εb= 14%であり,繊維Aと同等の力学的性質・強度であった.以上から,我々が液晶ブロック共重合体ラメラ構造で見出したことと同様,高分子ミルフィーユ構造は,層の分断により強化されることがわかった.一般に高分子は延伸による分子鎖配向によって強化される.繊維Cを液晶状態で熱処理した繊維Dにおいて,力学強度が繊維Aと同等になったことから,延伸による分子鎖配向ではなく,層の分断によりヤング率や降伏応力が増加していることを実験的に明確に示すことができた.
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