TiNi-Nb合金とTiCo-Nb合金は、鋳造状態で同様のミルフィーユ型共晶組織を有するが、キンク強化機構が大きく異なる。この原因を敬明するために、EBSDにより共晶組織中におけるB2-TiNi (or B2-TiCo)相とbcc-Nb相の方位関係を調べた。鋳造直後TiCo-Nb合金中では、菊池線が検出できず測定が不可能であったが、組織変化が鞆わない温度での熱処理によりEBSDでの検出が可能となった。合金中に多量の凝固ひずみが蓄積されていたと考えられる。この合金における両相の方位差は約58°であり、単相合金中における∑3粒界と類似した相境界を形成していることが分かった。一方、TiNi-Nb合金では、両相の方位差が0°すなわちcube-on-cubeの関係を有していることが分かっていたが、EBSD測定により方位差がないことを改めて確認することができた。 これら合金を圧延すると層状組織の屈曲が生じるが、屈曲部付近で徐々に結晶回転が生じ始め、屈曲部分で大きな回転が生じることわかった。その後の熱処理により徐々に進行した結晶回転が屈曲部に集約され、屈曲部部でさらに大きな回転が起こることが分かり、キンクの形成と熱処理による構造変化が明らかとなった。 前年までの成果により、TiCo-Nb合金およびTiNi-Nb合金では、それぞれ約150MPa、45MPaのキンク強化が生じ、TiCo-Nb合金で大きなキンク強化が発現することが分かっている。TiCo-Nb合金では両相の方位差があるため、相間でシュミット係数が異なる。そのため、相境界は転位通過の大きな障壁となり合金が強化される。一本、両相がcube-on-cubeの関係にあるTiNi-Nb合金では両相のシュミット係数が同じため、相境界は転位通過の障壁にはなりにくい。両相の方位関係がキンク強化の機構に強く影響を与えることが分かった。
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