本研究の目的は,キンクバンドが導入されたマグネシウム合金(MgZnY合金)において,比較的温度が高い力学条件下で発現するクリープ変形に対するキンクバンドの役割を調査することである. はじめに,応力を急変させたときの瞬間変形量について調査した.キンクバンドが初期状態で導入されていない場合は,導入材と比べて瞬間変形量が大きい.この理由は,変形時に新たにキンクバンドの導入が大規模に生じること(転位の増殖も考えられる)によると考えられる.一方,クリープ的な変形量は,キンクバンドが導入された方が,初期に導入されていない場合に比べて2倍程度大きい.これは,瞬間変形量の傾向と反対であり,圧延材の方がクリープ的な変形が生じやすい傾向にあることを示唆している. 次に,応力の変形速度依存性(応力指数)を評価した.250℃において,キンクバンドが導入されている試料では,変形速度が遅い領域でしきい応力的な挙動が見いだされた.この理由について解明するまでに至っていないが,変形因子(転位)の不足や二次キンク発現の有無などが関係していると考えられる.300℃の結果の場合,変形速度が1×10-5 s-1より遅くなると,応力の変形速度依存性が顕著に見られるようになる.このデータの近似直線の傾きは3~5程度であった.文献によると,300℃になると,KBは転位運動の障害として寄与しなくなることが明らかにされている.これを参照すると,変形速度が遅くなると,KBは転位運動の障害とならず,転位の回復及び増殖という,よく知られた転位運動が律速過程となるクリープ変形が生じていると考えることができる. 上述のように,圧延材における250℃と300℃において,特徴的な応力の変形速度依存性が見られた.この理由を明らかにするためには,組織観察を行うなどが必要である.
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