研究実績の概要 |
本研究課題では,マクロ材料での座屈によるキンク形成に着目し,そこでの座屈理論をミルフィーユ構造での座屈へ転用することを試みる.その達成には,ミルフィーユ構造を構成する硬質層,軟質層の弾性係数が必要であるが,計算により原子レベルの局所的弾性係数を評価する方法は未だ確立されていない.一方で,マクロレベルでのミルフィーユ構造を持つ炭素繊維積層板材では,荷重下でのせん断弾性定数の変化が,座屈を誘導するずれ,いわゆる,初期不整につながると考えられている.このような,巨視的レベルで見られる現象が,ナノレベルでのミルフィーユ構造を持つ材料においても生じるかどうかは興味深い.従って,まずはミルフィーユ構造での局所的弾性係数の計算法を確立することを目指している. 今年度研究においては,対象をMAX相と呼ばれるTi3AC2構造(A = Al, Ga, In, Si, Ge, Sn)に定め,量子力学に基づく第一原理計算を用いてMAX相内部の局所弾性係数を明らかとすることを目的とした.さらに,圧縮ひずみ下のせん断剛性の変化について調べた.局所弾性定数は,独自手法である原子応力計算法とGulletらによる原子ひずみ計算法を併せて用いることで計算した. ここでは,MAX相を軟質層(Ti-A-Ti)と硬質層(Ti-C-Ti-C-Ti)に分けて各々の局所弾性係数を計算した.元素Aの差異に応じて剛性は異なる局所弾性係数が得られた.ここで対象とした元素Aでの剛性傾向は,13族 < 14族,また周期について,第3 < 第4 < 第5である.得られた局所弾性は概ねこの傾向を再現した. 圧縮ひずみ下での計算では,MAX相のミルフィーユ構造としての座屈を想定して,面内方向に圧縮ひずみを加えながら,局所弾性定数を評価した.その結果,元素Aの選択に関わらず,圧縮ひずみによってせん断剛性の軟化が生じることが明らかとなった.
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