計画班が実施したポリエチレン(PE)の実験で、事前熱延伸による強化が顕著であることが明らかにされている。本研究では、炭素骨格レベルを再現した大規模な分子シミュレーションで、「事前熱延伸による材料強化メカニズム」を解明することを目的とした。 事前延伸率の異なる初期配置に対して、5000nsの静置計算で実験と同程度の結晶化度のPE結晶構造を得た。広角散乱と小角散乱の2次元散乱パターンの振る舞いから、PEのナノ結晶クラスターの構造的特徴の事前延伸率依存性が再現されていることを確認した。また、一軸延伸の変形MD計算で応力歪曲線を評価し、事前延伸率の増大とともに初期弾性率や降伏点の応力が強化されていることを確かめた。さらに、計算と実験の連携を進め、電子顕微鏡観察とともに、ナノ結晶クラスターのサイズが均質になる傾向を見出した。一軸延伸すると、このナノ結晶クラスターは、タイ分子の影響を受け、結晶の軸方向がばらつく挙動を、計算と実験の両方で確認できた。 上記に加え、計算科学的解析を深耕させるため、PEの結晶化判定手法の検討、高分子の相分離によるミルフィーユ(ラメラ)構造形成の計算技法や、高分子材料の機械的性質の評価手法などの検討を実施した。具体的には、PEの結晶化を判定する指標の検証を結び目環状鎖PEメルトの結晶化のMD計算で実施した。また、ミルフィーユ(ラメラ)構造を自己組織化で形成するブロック共重合高分子について、自己無撞着場理論による計算と、散逸粒子動力学(DPD)法は、ポリマーレベルでほぼ同一であることを確かめ、分岐形状で差異が出ることを明らかにした。さらに、ミルフィーユ構造の機械的性質を評価する計算モデルとして、排除体積鎖を実現したKremer-Grest模型ベースの手法を検討した。加えて、Kremer-Grest模型を用いた高分子架橋体の機械的性質の評価に関する研究も進めた。
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