公募研究
カイラル対称性はハドロンが現れる物質の階層において重要な役割を果たすと考えられている。裸のクォークの質量が0の極限において、パリティのみが異なるカイラルパートナーは同じ質量である。現実の世界では有限のクォーク質量がクォークと反クォークの凝縮をもたらし、カイラルパートナーに違った質量を与えると説明されている。しかしながら基本粒子である核子のカイラルパートナーですらまだよくわかっていない。核子Nのカイラルパートナーの候補とされる核子共鳴N(1535)S11の構造を明らかにすることを目指す。S11はηNチャンネルに強く結合するため、低エネルギーηN散乱の情報がS11の構造を反映する。本研究では、ηメソンと中性子nの散乱の寄与を露わに含む最適な運動学で、重陽子d標的でのηメソン光生成反応の微分断面積を測定し、ηN散乱の散乱長を評価した [Acta Phy. Polon. B 51, 27 (2020)]。得られた散乱長は想定していたよりも短いと考えられ、ηn閾値近傍で十分なエンハンスが見られなかった。また重陽子標的でのコヒーレントなπ0メソンとηメソンの同時生成反応についても解析を行い、ηメソンと重陽子の散乱長を決定する。ここで決定したηd散乱長と先に評価したηN散乱長が矛盾がないことを確認し、ηN相互作用が本当に弱いかについての考察する。もしηN散乱長が本当に短いのであれば、核子のカイラルパートナーについて再検討が必要であり、π-p→ηn反応など吸収過程となる反応についても調べること必要となる。これについても検討していきたい。
1: 当初の計画以上に進展している
ηメソンと中性子nの散乱の寄与を露わに含む最適な運動学で、重陽子d標的でのηメソン光生成反応(γd→pηn)の微分断面積を測定することで、ηN散乱の散乱長が大きくないことがわかった。また重陽子標的でのコヒーレントなπ0メソンとηメソンの同時生成反応についても解析を行い、ηメソンと重陽子の散乱長を決定した。ηd散乱長についても、ηN散乱長がそれほど大きくないことと矛盾しない、やや小さめのものが得られた。最適な運動学でのγd→pηn反応の微分断面積を測定し、ηN散乱長を評価する解析については一段落した。
重陽子d標的でのηメソン光生成反応におけるηn不変質量に対する微分断面積でのηn閾値でのエンハンスの大きさからはηNの散乱長が想定より短いと結論せざるを得ない。今後は、本当にηN散乱長が想定より短いかを確認するため、重陽子標的でのコヒーレントなπ0メソンとηメソンの同時生成反応についても解析を行い、ηメソンと重陽子の散乱長を決定する。ここで決定したηd散乱長と先に評価したηN散乱長が矛盾ないことを確認し、ηN相互作用が本当に弱いかに結論づけたい。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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