研究領域 | 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 |
研究課題/領域番号 |
21H00120
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
萩野 浩一 京都大学, 理学研究科, 教授 (20335293)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クラスター崩壊 / 核分裂 / 生成座標法 / 微視的理論 / 密度汎関数法 |
研究実績の概要 |
原子核構造の研究でよく用いられている生成座標法(GCM)を重い原子核のクラスター崩壊に適用し、密度汎関数法に基づく微視的記述を試みた。生成座標法は、これまで基底状態及び低エネルギー励起状態の記述によく用いられてきたが、核分裂などの大振幅集団運動に適用されたことはなかった。この理論を適用するにあたり、核構造計算でよく用いられる核子間有効相互作用であるSkyrme相互作用を用いたGCM計算でクラスターの生成確率を求め、それをポテンシャル模型によるクーロン障壁の透過確率と組み合わせることにより崩壊確率を求めた。その際、8重極変形で原子核の形状を拘束した計算を行い、この座標に沿った1次元のGCM方程式を解いた。また、対相関相互作用の強さをデフォルトより強くすることで、対相関の動的効果を取り入れた。これを222Rn が 14C を放出して208Pb に崩壊するクラスター崩壊現象に適用し、崩壊幅に対する実験データをよく再現することに成功した。この成果は、228Thや232Uの計算結果とともに Phys. Rev. C誌に発表された。 また、同様の手法を誘起核分裂に拡張した。ランダム行列に基づく模型を用いて、誘起核分裂等の計算でよく用いられる遷移状態理論を微視的ハミルトニアンに基づいて再現することに初めて成功した。この成果は J. Phys. Soc. Jpn. (JPSJ) 誌及び Phys. Rev. E 誌に発表された。更に、関連研究として、共役運動量を取り入れた動的生成座標法(DGCM)の開発を行い、16O核の基底状態及び励起状態の記述を行った。基底状態に関しては、従来の生成座標法の計算とあまり変わらない結果が得られたが、励起状態に関しては共役運動量の効果により和則をよりよく満たす状態が得られることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
クラスター崩壊現象は2つのフラグメントの非対称度が大きい核分裂ともみなすことができる。核分裂の微視的記述及びその微視的理解は、原子核理論における残された大きな問題の一つであり、超非対称核分裂であるクラスター崩壊現象に対し実験データをよく再現できる計算結果が微視的に得られたことは大きな成果であった。また、誘起核分裂の微視的理解も記述が難しく、これまでほとんど手つかずの状況であった。まだ実験データと比較できるような計算はできていないものの、本研究で開発した手法で遷移状態理論で用いられている仮定が再現できたことは大きな成果とみなされ、JPSJ誌からは “JPS Hot Topics” に選ばれた。
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今後の研究の推進方策 |
生成座標法を用いたクラスター崩壊の記述に成功したものの、生成座標法に特有な問題も明らかになった。それは、崩壊波動関数が指数関数的に減衰するため、生成座標法におけるヒル・ホイラー方程式を数値的に精度よく求める必要があるということである。また、クラスターが核内で析出し切断するところまで理論的に記述しようとすると、8重極変形による拘束のみでは不十分で、ネックの自由度も含めた多次元空間に生成座標法を拡張をする必要があるということである。これらの拡張をするにあたり、来年度はまずこれらの問題が陽に現れない課題である誘起核分裂の研究を中心に行い、生成座標法による原子核の崩壊現象の微視的アプローチに内在する普遍的な問題の理解を深める。
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