公募研究
ハイエントロピー合金における特徴的な高強度・高靭性特性の起源解明は,当該研究領域の重要な研究課題のひとつである。中でもshort-range orderingと呼ばれる短範囲規則化の影響については,材料特性に影響ありとする報告がある一方,影響なしとする報告もあり,収束していない。また短範囲規則化と材料特性の相関を議論する上で,短範囲規則化の実態および制御方法を実験的に明らかにすることが望まれている。我々はR2年度からR3年度にかけて,ミディアムエントロピー合金と呼ばれる三元合金Tr-CoNi(Tr=Cr, Mn, Fe)において議論されている短距離規則化について,中性子回折実験を行い,短範囲規則化の観測を試みた。その結果,MnCoNiにおいては,禁制反射位置の(100)や(110)等に有意かつ幅の広い信号(散漫散乱)が観測され,短範囲ではあるもののL10/L12型の規則構造の形成を示唆する結果を得た。観測された散漫散乱は熱処理の前後で明らかな変化を示し,規則化は焼鈍により発達することも明らかとなった。観測されたピーク幅から大凡の空間相関の大きさは,焼鈍前で1 nm程度,焼鈍後に4 nm程度と評価され,これらは基本反射から評価された平均構造の相関長の1/10程度か,それ以下の短い相関距離であることもわかってきた。これらの成果は各学会・研究会において発表した。これらに加えてX線吸収端微細構造解析の手法を用いて,チタン合金中に埋め込まれた1at%程度の微量な不純物原子周りの局所的なひずみの観測を試み,第一原理計算の報告を定性的に再現する結果を得ることに成功した。R4年度においては,本年度までに明らかとなってきた上記の手がかりを基にして,ミディアムエントロピー合金の短範囲規則化に対する熱処理の影響についてさらに研究を進める予定である。
4: 遅れている
学術的に意味のある実験結果を得ることは出来ているものの,そのスピードは速いとは言えない。大学業務のほか,日本原子力研究開発機構のJRR3に設置された東北大学が所管する中性子散乱装置群の管理および装置群を用いた共同利用実験の補助をする業務に,大半のエフォートを割かざるを得ない状況になっているためである。加えて出張の移動に伴う時間のロスや疲労の蓄積により,集中して論文をまとめる時間を十分に確保することが難しいことも要因のひとつとなっている。R3年度はJRR3再稼働一年目ということもあったためトラブルは尽きなかったが,R4年度以降は多少落ち着くことを期待をしており,研究の遅れを少しでも取り戻したいと考えている。
R2年度からR3年度にかけて発見した,ミディアムエントロピー合金Tr-CoNi(Tr=Cr, Mn, Fe)の短距離規則化を示唆する結果について,さらに検証を進める予定である。特にMnCoNi中の禁制反射の散漫散乱を観測して,短範囲規則化の空間相関の熱処理効果を明らかにしたい。R3年度の実験により,短範囲規則化の相関距離が熱処理前で1nm,400時間の熱処理後に4nm程度となることは明らかにできたものの,その進行速度については検証が出来ていない。R4年度はまず,その検証を行いたい。並行して単結晶試料の合成を試み,短範囲規則化の3次元情報を得ることを目指す。また,CrCoNiについて議論されている「隠れた」短距離秩序についても,検証を継続する。新しい試みとして,偏極中性子を用いた材料研究を模索する。そのためにJRR3東北大学管理装置の高度化に加え,偏極子導入の検討を進める。得られた成果は各学会・研究会において発表を行い,極力,R4年度に学術論文としてまとめる予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 1件)
Journal of the Physical Society of Japan 90 (2021) 104706
巻: 90 ページ: 104706
10.7566/jpsj.90.104706
Journal of the Physical Society of Japan 90 (2021) 064712
巻: 90 ページ: 064712
10.7566/jpsj.90.064712
Proceedings of the 3rd J-PARC Symposium (J-PARC2019)
巻: 33 ページ: 011058
10.7566/jpscp.33.011058
J. Phys. Soc. Jpn. 90, 114702 (2021)
巻: 90 ページ: 114702
10.7566/JPSJ.90.114702