研究領域 | ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 |
研究課題/領域番号 |
21H00140
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
谷本 久典 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70222122)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高エントロピー合金 / 局所構造 / 階層構造 / 電気抵抗 / 熱処理 |
研究実績の概要 |
5元素以上を等モル比で合金化した単相固溶体状態の高エントロピー合金では、従来の合金では見られない高強度と延性の両立や高温でも強度低下しない特徴があり、その原因として多元素原子が乱雑に格子配置することによる高い配置のエントロピー効果が指摘されている。一方で、原子サイズの違いから局所歪が極めて大きいことも報告されている。幾何学的にも化学種的にも乱雑構造のアモルファス合金でも、特定原子からなる短距離秩序構造が存在すると考えられていることから、高エントロピー合金でも化学種的に局所構造が存在し、高温安定性などの特性に関与している可能性がある。これまでに、代表的な高エントロピー合金として知られるCrMnFeCoNi合金に対して、局所構造のあぶり出しが可能なパルス通電実験を行ったところ、パルス通電による電気抵抗変化が観測され、従来の合金に対する電気抵抗測定の結果と比較検討することから、Cr原子最近接がNi原子で優先的に占有される規則構造化が生じていることが示唆された。 CrMnFeCoNi合金よりも局所構造形成傾向が強と言われているCoCrNi合金についても焼鈍などの実験を行ったところ、Cr原子を中心とする局所構造形成によると思われる電気抵抗増大や電子状態変化が観測された。その一方で、変形強度などの機械的性質には大きな変化が見られなかったとの同研究領域グループからの報告を踏まえると、局所構造は短範囲に留まり、試料全体に広がっていないことを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CrMnFeCoNi合金に対するパルス通電及び焼鈍実験から、Cr原子を中心とするNiとの秩序構造形成傾向があることが明らかになった。さらに、より短距離秩序形成の傾向が報告されているCrCoNi合金においても、焼鈍により局所構造形成に伴う電気抵抗増大及び特にCrについての電子状態変化がX線吸収分光から示唆された。これらは高エントロピー合金に代表される等比高濃度乱雑系固溶体合金でも、原子レベルで見た場合には短距離筒所が形成されること、すなわち本研究で予想していた、乱雑構造凝縮系では何らかの局所構造が形成されるということを示している。
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今後の研究の推進方策 |
CrMnFeCoNi合金やCrCoNi合金では短距離秩序形成の傾向が確認された。ここでこれまでの実験結果から、Cr原子最近接をNi原子が取り囲むように短距離秩序配置している可能性が高い。その原因を追究するためにも、短距離秩序の構造の解明及びその規模について、X線吸収分光実験と電子計算機示実験を並行して進めることで検証する。また、局所構造形成が起きないとされているCrMnNi合金についても焼鈍や加工などによる電気抵抗変化及びX線吸収分光を進め、短距離秩序形成の有無、さらには短距離秩序形成の原因機構について検討する。
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