研究領域 | ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 |
研究課題/領域番号 |
21H00142
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
新山 友暁 金沢大学, 機械工学系, 准教授 (00583858)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高エントロピー合金 / き裂進展 / 塑性変形 / 粒界 / 分子動力学シミュレーション |
研究実績の概要 |
ハイエントロピー合金の塑性変形及び破壊現象における臨界的な挙動における原子サイズのばらつき(原子サイズ分散)の影響を調べるため,先行調査としてサイズ分散効果を制御できる2体型原子間相互作用ポテンシャル(原子同士の間に働く力を決定するポテンシャル)を作成し,いくつかの条件下で塑性変形およびき裂進展の分子動力学シミュレーションを行った。 塑性変形シミュレーションにおいては,原子サイズのばらつきがある程度よりも大きくなるとき裂の進展が抑制され,延性的な挙動が支配的になることが分かった。その結果として流動応力が向上していた。また,塑性変形規模が臨界挙動特有のベキ分布に従っていることが確認できた。この結果から,臨界塑性挙動の統計的性質を解析する対象となるポテンシャルの有効範囲が明確になった。 き裂進展シミュレーションの結果から,単結晶での劈開き裂の進展では原子サイズがばらつきをもつことによる効果が大きく,原子サイズ分散が比較的小さい段階でき裂自体が進展しなくなり間欠的なき裂進展挙動が消失することがわかった。一般的な金属は,異なる原子配列方向をもった領域の集合体であり,各領域の境界部分(粒界)はき裂進展しやすい脆性的な部分である。この粒界上のき裂進展のシミュレーションを行ったところでは,間欠的ではない一方的なき裂進展が見られた。しかし,ハイエントロピー合金に特有の原子サイズ分散を与えたところ,それにともなう粒界偏析(特定の原子が粒界部分に多く分布するようになること)によってき裂が一時的に停止する進展挙動に切り替わり,き裂進展抑制効果がもたらされていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り,原子サイズのばらつき(原子サイズ分散)をコントロールできる原子間相互作用ポテンシャルを作成することができた。また,先行調査として実行したシミュレーションにおいて,臨界的な塑性変形挙動とともに原子サイズ分散に依存した平均流動応力をえることができた。 き裂進展シミュレーションにおいては,間欠的なき裂進展の統計的特徴がサイズ分散によって変化することを予想していたが,き裂進展の鈍化(単結晶)やき裂停止の消失(粒界)などのよりドラスティックな変化が観察された。非平衡臨界挙動の枠組みからはやや逸脱するが,ハイエントロピー合金のもつ高靱性特性との関連を想起させ,より興味深い結果が得られたといえる。また,塑性変形シミュレーションにおいても内部でのき裂発生と進展が観察されていることから,き裂と塑性という異なる非弾性変形モードの混合が臨界挙動へ影響している可能性も考えられる。 上述の結果からも,概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,先行調査で特定したパラメーター領域を中心に,非弾性変形の統計性を解析する。 とくにき裂進展挙動に注目し,原子サイズ分散および粒界偏析によって粒界上のき裂進展が抑制された原因について考察する。ただし,粒界偏析においては相分離傾向が見られたため,原子間相互作用の再調整も検討する。 塑性変形においては臨界的な挙動が観察されていたため,その変形規模の統計的特徴と原子サイズ分散の関係を調べる。このとき,引張応力の変動から塑性変形の規模を定量化するが,このとき熱的なノイズが正確な変形規模と分布の計算の障害になる。時系列データの高周波数成分をカットする処理や,原子配置を逐次的に平衡位置に緩和する処理を行うことで,これを回避しより正確に統計分布の抽出を試みる。
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