研究実績の概要 |
CrCoNiミディアムエントロピー合金試料を一定速度で加熱,冷却した時の電気抵抗の温度変化のその場測定結果を行った.圧延ままの試料では電気抵抗は小さく,熱処理を施すことで電気抵抗が増加することが明らかとなった.加熱過程において800 Kから900 Kの間では一旦熱処理後の試料よりも大きな電気抵抗値となる.圧延ままの試料であることから転位の存在が何らかの形で関与していると考えられるが,詳しいことは分かっていない.冷却速度が異なる場合における電気抵抗変化の違いについても検討した.900 K以下では電気抵抗の冷却速度依存性が見られ,冷却速度が速くなると内部の原子配列が熱平衡状態を保てなくなることが分かる.900 K以上では微分値も冷却速度に依存せず,これ以上の温度では試料が熱平衡状態にあることが確認された.また,熱平衡状態からずれ始める温度を求めると,この温度と冷却速度との間はアレニウスの関係を良く満たすことが分かった.この関係がさらに速い冷却速度に外挿しても成り立つと仮定すると,水焼き入れで実現可能な5000 K/秒の焼き入れ速度では1075 K程度の熱平衡状態が焼き入れ可能であるにすぎないことが明らかとなった. 次に1173 Kから水焼き入れを行なった後,653 K, 673 K, 693 Kと熱処理温度を変化させながら電気抵抗変化を測定した.熱処理温度を変化させた時間において活性化エネルギーを求めると,電気抵抗変化に係る活性化エネルギーは240~270 kJ/molと決定された.これはハイエントロピー合金中の各元素の拡散の活性化エネルギー240~320 kJ/molとほぼ同等である.
|