本研究では多成分系水酸化物ナノ粒子を原料としたハイエントロピー合金ナノ材料の新規な合成法を模索した。原料とする層状金属水酸化物塩(LHS)は金属イオンが重縮合反応して生成するが、価数が2-4価の金属イオンであれば遷移金属や典型金属を問わず共沈現象によって原子レベルで均質に混合することが知られている。エポキシドを用いるLHS合成法によって、Mn/Fe/Co/Ni/Cuをはじめとした金属種を5つ以上含む系において直径10 nm以下の微細な粒子が得られた。一方で、金属種としてAlを導入した場合には数百nmを超える粒子が生成した。これはナノ粒子生成時の保護材との相互作用の強さが変わったことに起因すると考える。得られたLHSナノ粒子の還元を試みた。LHSの結晶中には有機分子を導入でき、その分解に伴って発生する還元性ガスを利用した金属相生成が可能であることを見出している。不活性雰囲気で焼成した試料を観察すると100 nm程度の大きな粒子が混在するものの一部では10 nm程度の微小な合金粒子の生成が認められた。この手法をより発展させ、足場材にLHSナノ粒子を担持し、粒子同士が接さない分散状態で熱処理した。これによって生成した粒子は5-15 nmとLHSナノ粒子と同程度のスケールであり、それぞれが凝集することなく分散していた。化学組成は仕込み比に近く、組成ずれを起こさないことも明らかにした。カンター合金と類似の組成や既存液相法では難しかったMgを含む組成でもハイエントロピー合金ナノ粒子が得られることを見出した。
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