研究領域 | ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 |
研究課題/領域番号 |
21H00155
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
宮本 博之 同志社大学, 理工学部, 教授 (10298698)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金 / 強ひずみ加工 / 超微細結晶材料 / 腐食 |
研究実績の概要 |
二元Fe-Cr合金やステンレス鋼では結晶粒微細化により耐食性が向上することが知られており、特に強ひずみ加工(SPD)法による結晶粒超微細化はその効果が大きい。微細化によりCrの拡散が促進されて安定な不動態皮膜を形成するためと考えられている。Cr含有ハイエントロピー合金(HEA)においても不働態被膜の形成にはCrの影響が大きく、Fe-Cr合金と同様に、結晶粒微細化による耐食性の向上が予想される.公募研究の第1期ではCr量を変化さたCoCrFeNiMn 合金を作製し,高圧ねじり加工(HPT)により結晶粒を微細化させた後に腐食挙動を調査した結果、結晶粒微細化の腐食挙動への影響は確認できなかった.一方、アーク溶解ではHEA合金特有の濃度偏析や介在物を完全除去することは難しく、微量な存在が耐食性に及ぼす影響が大きく、これらの影響も否定できない。そこで本研究ではさらに清浄度が高い真空溶解により材料を作製し、前回と同様にCr含有量を0~20at%の範囲で系統的に変化させた材料についてHPTによる結晶粒微細化が耐食性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。その結果、以下のことが明らかになった。 1.Cr含有量が10%以上では粗粒材,HPT材ともに不働態化による電流抑制と孔食発生による電流上昇が確認された。Cr含有量が増加するほど孔食電位は向上した.また,粗粒材,HPT材で孔食電位に大きな差異は認められなかった. 2.0%Cr材では粗粒材およびHPT材とも不働態化が生じない。一方、6%材ではCG材では全面溶解するのに対して、HPT材で不働態化による電流抑制と孔食発生が確認された。Fe-Cr合金と同様に、結晶粒超微細化により不働態化するCr下限値以下においても不働態化が生じたものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結晶粒微細化の影響について明確な効果が確認できない。また、腐食試験の再現性が低く、特に孔食電位についてはデータのバラツキが大きいことが問題となっている。結晶粒微細化の効果が表れない理由として、Mnの添加量が大きいことが考えられる。他の文献においてもMnは安定な不働態被膜の形成を阻害することが報告されている。また、データのバラツキの原因については介在物の影響が考えられる。孔食試験では安定な不働態被膜が形成していても、介在物が一点存在すれば、孔食発生の原因となる。そこで、さらに清浄度の高い材料を溶解して引き続き検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
先述のようにMnはハイエントロピー合金中の元素の中で安定な不働態被膜の形成を阻害して、耐食性を低下させる元素として知られている。その理由はCrと並んで拡散係数が高いが、酸化物の保護性が低く溶解速度が速いために表面における安定なCr酸化物の形成を阻害すると考えられる。そこで2022年度は0~25%までMnを系統的に変化させた材料を溶解して、引き続き強ひずみ加工を実施して、微細化が耐食性に及ぼす影響を検討する。
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